電磁場のローレンツ変換を幾何学的に理解する。(1)

電磁場をローレンツ変換すると、電場と磁場が混じり合う。その変換は数式ではっきり示されており、何ら曖昧なところはない。

だが、上向きの電場中で観測者が前進すると左向きの磁場が生じる、などと言われてもどういうからくりになっているのか直感的に理解しがたい。このような状況をすんなり納得できるような、幾何学的なモデルを考えてみよう。

目次

第1章 電磁場のローレンツ変換

最初に電磁場のローレンツ変換の変換式についてごく簡単に振り返っておく。理論的にこのような関係式がどうやって導出されてなぜ成り立つのかといった詳しいことは教科書等を見てほしい。

1.1 電磁場テンソル

3次元的な電磁気学では、1成分のスカラーポテンシャル 𝜙 と3成分のベクトルポテンシャル 𝑨 = (𝐴𝑥, 𝐴𝑦, 𝐴𝑧) を使って、電場 𝑬 = (𝐸𝑥, 𝐸𝑦, 𝐸𝑧) と磁場 𝑩 = (𝐵𝑥, 𝐵𝑦, 𝐵𝑧) を 𝑬=∂𝑨∂𝑡grad𝜙 (1) 𝑩=rot𝑨(2) のように表した。 𝑩 は正式には「磁束密度」だが、面倒なので「磁場」と書くことにする。

相対性理論では4次元時空を扱うので、 𝜙 と 𝑨 を組み合わせて4成分のベクトルを作ろう。ただしSIだと 𝜙 の次元は 𝖬𝖫²𝖳⁻³𝖨⁻¹ で 𝑨 の次元は 𝖬𝖫𝖳⁻²𝖨⁻¹ だから両者の次元が一致しない。そこで 𝜙 を光速 𝑐 で割って次元を 𝑨 に合わせて、 (𝐴𝜇)= ( 𝜙𝑐, 𝐴𝑥, 𝐴𝑦, 𝐴𝑧 ) というベクトルを定義すると、実はこれはちゃんと4元反変ベクトルになっている。そしてミンコフスキー座標では反変ベクトルと共変ベクトルは第0成分(時間成分)の符号が違うだけだから、これの共変ベクトルは (𝐴𝜇)= ( 𝜙𝑐, 𝐴𝑥, 𝐴𝑦, 𝐴𝑧 ) である。この 𝐴𝜇 とか 𝐴𝜇 を4元ポテンシャルと呼ぶ。

ここで 𝐹𝜇𝜈= ∂𝐴𝜈∂𝑥𝜇 ∂𝐴𝜇∂𝑥𝜈 という反対称な2階共変テンソルを定義すると、その実態は (𝐹𝜇𝜈) = ( 𝐹00 𝐹01 𝐹02 𝐹03 𝐹10 𝐹11 𝐹12 𝐹13 𝐹20 𝐹21 𝐹22 𝐹23 𝐹30 𝐹31 𝐹32 𝐹33 ) = ( ∂𝐴0∂𝑥0 ∂𝐴0∂𝑥0 ∂𝐴1∂𝑥0 ∂𝐴0∂𝑥1 ∂𝐴2∂𝑥0 ∂𝐴0∂𝑥2 ∂𝐴3∂𝑥0 ∂𝐴0∂𝑥3 ∂𝐴0∂𝑥1 ∂𝐴1∂𝑥0 ∂𝐴1∂𝑥1 ∂𝐴1∂𝑥1 ∂𝐴2∂𝑥1 ∂𝐴1∂𝑥2 ∂𝐴3∂𝑥1 ∂𝐴1∂𝑥3 ∂𝐴0∂𝑥2 ∂𝐴2∂𝑥0 ∂𝐴1∂𝑥2 ∂𝐴2∂𝑥1 ∂𝐴2∂𝑥2 ∂𝐴2∂𝑥2 ∂𝐴3∂𝑥2 ∂𝐴2∂𝑥3 ∂𝐴0∂𝑥3 ∂𝐴3∂𝑥0 ∂𝐴1∂𝑥3 ∂𝐴3∂𝑥1 ∂𝐴2∂𝑥3 ∂𝐴3∂𝑥2 ∂𝐴3∂𝑥3 ∂𝐴3∂𝑥3 ) = ( 0 ∂𝐴𝑥(𝑐𝑡) ∂𝑥(𝜙𝑐) ∂𝐴𝑦(𝑐𝑡) ∂𝑦(𝜙𝑐) ∂𝐴𝑧(𝑐𝑡) ∂𝑧(𝜙𝑐) ∂𝑥(𝜙𝑐) ∂𝐴𝑥(𝑐𝑡) 0 ∂𝐴𝑦∂𝑥∂𝐴𝑥∂𝑦 ∂𝐴𝑧∂𝑥∂𝐴𝑥∂𝑧 ∂𝑦(𝜙𝑐) ∂𝐴𝑦(𝑐𝑡) ∂𝐴𝑥∂𝑦∂𝐴𝑦∂𝑥 0 ∂𝐴𝑧∂𝑦∂𝐴𝑦∂𝑧 ∂𝑧(𝜙𝑐) ∂𝐴𝑧(𝑐𝑡) ∂𝐴𝑥∂𝑧∂𝐴𝑧∂𝑥 ∂𝐴𝑦∂𝑧∂𝐴𝑧∂𝑦 0 ) = ( 0 1𝑐 (∂𝐴𝑥∂𝑡∂𝜙∂𝑥) 1𝑐 (∂𝐴𝑦∂𝑡∂𝜙∂𝑦) 1𝑐 (∂𝐴𝑧∂𝑡∂𝜙∂𝑧) 1𝑐 (∂𝜙∂𝑥∂𝐴𝑥∂𝑡) 0 ∂𝐴𝑦∂𝑥∂𝐴𝑥∂𝑦 (∂𝐴𝑧∂𝑥+∂𝐴𝑥∂𝑧) 1𝑐 (∂𝜙∂𝑦∂𝐴𝑦∂𝑡) (∂𝐴𝑥∂𝑦+∂𝐴𝑦∂𝑥) 0 ∂𝐴𝑧∂𝑦∂𝐴𝑦∂𝑧 1𝑐 (∂𝜙∂𝑧∂𝐴𝑧∂𝑡) ∂𝐴𝑥∂𝑧∂𝐴𝑧∂𝑥 (∂𝐴𝑦∂𝑧+∂𝐴𝑧∂𝑦) 0 ) = ( 0 𝐸𝑥𝑐 𝐸𝑦𝑐 𝐸𝑧𝑐 𝐸𝑥𝑐 0 𝐵𝑧 𝐵𝑦 𝐸𝑦𝑐 𝐵𝑧 0 𝐵𝑥 𝐸𝑧𝑐 𝐵𝑦 𝐵𝑥 0 ) (3) のように、電場(を光速で割ったもの)と磁場をただ整然と並べただけのテンソルになる。言わなくてもわかると思うが最後の等号は(1)・(2)式を使った変形である。相対性理論では電場と磁場を別々のベクトルとして扱うよりも、両方の情報が入っているこの電磁場テンソルをよく使う(ただし符号が逆になる流儀もある)。

1.2 電磁場テンソルのローレンツ変換

𝐾 系における電磁場テンソルを 𝐹𝜇𝜈 とし、 𝐾 系に対して 𝑥 軸方向に一定の速度 𝑣 で運動する 𝐾′ 系における電磁場テンソルを 𝐹′𝛼𝛽 とすれば、これらは普通のローレンツ変換で結びつく。それを 𝐹𝛼𝛽= 𝛬𝛼𝜇 𝛬𝛽𝜈 𝐹𝜇𝜈 (4) のように書けば、変換行列は ( 𝛬00 𝛬01 𝛬02 𝛬03 𝛬10 𝛬11 𝛬12 𝛬13 𝛬20 𝛬21 𝛬22 𝛬23 𝛬30 𝛬31 𝛬32 𝛬33 ) = ( 11(𝑣𝑐)2 𝑣𝑐 1(𝑣𝑐)2 0 0 𝑣𝑐 1(𝑣𝑐)2 11(𝑣𝑐)2 0 0 0010 0001 ) (5) である。これは共変成分を変換する変換行列だから 𝛬¹ と 𝛬 の符号は−ではなく+である。 𝐹′𝛼𝛽 の表式を求めるには(3)(5)式(4)式に代入すればよいのだが、具体的な変換を1成分ずつ別々の式で書くのはめんどくさいので行列の形式でまとめて書けば、 (𝐹𝛼𝛽) = (𝛬𝛼𝜇) (𝐹𝜇𝜈) (𝛬𝛽𝜈)𝑡 = ( 11(𝑣𝑐)2 𝑣𝑐 1(𝑣𝑐)2 0 0 𝑣𝑐 1(𝑣𝑐)2 11(𝑣𝑐)2 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1 ) ( 0 𝐸𝑥𝑐 𝐸𝑦𝑐 𝐸𝑧𝑐 𝐸𝑥𝑐 0 𝐵𝑧 𝐵𝑦 𝐸𝑦𝑐 𝐵𝑧 0 𝐵𝑥 𝐸𝑧𝑐 𝐵𝑦 𝐵𝑥 0 ) ( 11(𝑣𝑐)2 𝑣𝑐 1(𝑣𝑐)2 0 0 𝑣𝑐 1(𝑣𝑐)2 11(𝑣𝑐)2 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1 ) 𝑡 = ( 𝑣𝑐𝐸𝑥 𝑐1(𝑣𝑐)2 𝐸𝑥 𝑐1(𝑣𝑐)2 𝐸𝑦+𝑣𝐵𝑧 𝑐1(𝑣𝑐)2 𝐸𝑧𝑣𝐵𝑦 𝑐1(𝑣𝑐)2 𝐸𝑥 𝑐1(𝑣𝑐)2 𝑣𝑐𝐸𝑥 𝑐1(𝑣𝑐)2 𝑣𝑐2𝐸𝑦+𝐵𝑧 1(𝑣𝑐)2 𝑣𝑐2𝐸𝑧𝐵𝑦 1(𝑣𝑐)2 𝐸𝑦𝑐 𝐵𝑧 0 𝐵𝑥 𝐸𝑧𝑐 𝐵𝑦 𝐵𝑥 0 ) ( 11(𝑣𝑐)2 𝑣𝑐 1(𝑣𝑐)2 0 0 𝑣𝑐 1(𝑣𝑐)2 11(𝑣𝑐)2 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1 ) = ( 0 𝐸𝑥𝑐 𝐸𝑦𝑣𝐵𝑧 𝑐1(𝑣𝑐)2 𝐸𝑧+𝑣𝐵𝑦 𝑐1(𝑣𝑐)2 𝐸𝑥𝑐 0 𝐵𝑧𝑣𝑐2𝐸𝑦 1(𝑣𝑐)2 𝐵𝑦+𝑣𝑐2𝐸𝑧 1(𝑣𝑐)2 𝐸𝑦𝑣𝐵𝑧 𝑐1(𝑣𝑐)2 𝐵𝑧𝑣𝑐2𝐸𝑦 1(𝑣𝑐)2 0 𝐵𝑥 𝐸𝑧+𝑣𝐵𝑦 𝑐1(𝑣𝑐)2 𝐵𝑦+𝑣𝑐2𝐸𝑧 1(𝑣𝑐)2 𝐵𝑥 0 ) (6) のようになる。ただし行列の左上の 𝑡 は転置行列を表す。(4)式は個々の成分の式だから右辺の積の順番はどうでも良いが、(6)式は行列だから右辺の積の順番を好き勝手に変えてはいけないし、適切に転置を取らなければならない(今の問題ではたまたま3個目の行列は対称行列になっているから転置を取り忘れても結果は変わらないが、それはたまたまである)。行列の形式で書いたときにこのようになる理屈がわからなければ、地道に行列の積の計算と縮約の計算を別々に紙に書いて見比べてみるとよいだろう。

さて、 𝐾′ 系における電磁場テンソル 𝐹′𝛼𝛽 と電場 𝑬′ = (𝐸′𝑥, 𝐸′𝑦, 𝐸′𝑧) 、磁場 𝑩′ = (𝐵′𝑥, 𝐵′𝑦, 𝐵′𝑧) との関係は 𝐾 系の(3)式と同様に (𝐹𝛼𝛽)= ( 0 𝐸𝑥𝑐 𝐸𝑦𝑐 𝐸𝑧𝑐 𝐸𝑥𝑐 0 𝐵𝑧 𝐵𝑦 𝐸𝑦𝑐 𝐵𝑧 0 𝐵𝑥 𝐸𝑧𝑐 𝐵𝑦 𝐵𝑥 0 ) (7) であって、(6)式(7)式は同じものを表しているから、 𝐸𝑥=𝐸𝑥 (8) 𝐸𝑦= 𝐸𝑦𝑣𝐵𝑧 1(𝑣𝑐)2 (9) 𝐸𝑧= 𝐸𝑧+𝑣𝐵𝑦 1(𝑣𝑐)2 (10) 𝐵𝑥=𝐵𝑥 (11) 𝐵𝑦= 𝐵𝑦+𝑣𝑐2𝐸𝑧 1(𝑣𝑐)2 (12) 𝐵𝑧= 𝐵𝑧𝑣𝑐2𝐸𝑦 1(𝑣𝑐)2 (13) のようになっているということである。これが電場と磁場の各成分のローレンツ変換である。

(8)〜(13)式は 𝐾 系に対する 𝐾′ 系の相対速度が 𝑥 軸方向になっている場合であるが、相対速度 𝒗 が一般の方向を向いている場合の変換式は以下のようになる。 𝒗 に平行なベクトルを 、垂直なベクトルを で表すと、 𝑬=𝑬 (14) 𝑬= 𝑬+𝒗×𝑩 1|𝒗𝑐|2 (15) 𝑩=𝑩 (16) 𝑩= 𝑩𝒗𝑐2×𝑬 1|𝒗𝑐|2 (17) である。あるいはまとめて 𝑬= 𝑬+ 𝑬+𝒗×𝑩 1|𝒗𝑐|2 𝑩= 𝑩+ 𝑩𝒗𝑐2×𝑬 1|𝒗𝑐|2 と書いてもよいだろう。文献によっては 𝒗 × 𝑩 のところが 𝒗 × 𝑩 とか (𝒗 × 𝑩) になっているものもあるが、ちょっと考えればわかるがその ⟂ はあってもなくても同じなのでどの書き方でも良い(𝒗 × 𝑬 も同様)。

⛭ 数式の表示設定 (S)