バーコフの定理(4)

5. 見落とした解はないか

方程式を作るために1節で計量の解の形を仮定したときのことを思い出してみよう。最初に球対称であるという幾何学的な考察から線素の式は d𝑠2= 𝐹(𝑤,𝑟)d𝑤2 +2𝐻(𝑤,𝑟)d𝑤d𝑟 +𝐺(𝑤,𝑟)d𝑟2 +{𝐷(𝑤,𝑟)}2 (d𝜃2+sin2𝜃d𝜑2) (4)式 という形で書けるはずだと考えた。これに対して 𝑟=𝐷(𝑤,𝑟) (5)式 𝑟=𝑟(𝑤,𝑟) (6)式 という座標変換をすることにより、(4)式 d𝑠2 = 𝐽(𝑤,𝑟)d𝑤2 +2𝐾(𝑤,𝑟)d𝑤d𝑟 +𝐿(𝑤,𝑟)d𝑟2 +𝑟2 (d𝜃2+sin2𝜃d𝜑2) (7)式 という形に簡略化できた。さらにこれに対して 𝑤=𝑤(𝑤,𝑟) (8)式 𝑤=𝑤(𝑤,𝑟) (9)式 ただし ∂𝑤(𝑤,𝑟)∂𝑤 >0 (10)式 ∂𝑤(𝑤,𝑟)∂𝑟 = 𝐾(𝑤,𝑟) 𝐽(𝑤,𝑟) (11)式 という座標変換をすることにより、(7)式 d𝑠2 = 𝐴(𝑤,𝑟) d𝑤2 +𝐵(𝑤,𝑟) d𝑟2 +𝑟2 (d𝜃2+sin2𝜃d𝜑2) (12)式 という形に簡略化できた。したがって(12)式の形の解を見つければよいと考えたのだった。しかしこの2つの座標変換はどんな場合にでも絶対にできるとは言い切れない。(4)式の計量の関数が特殊な形をしているとうまく座標変換できない場合がある。そのような特殊な計量の中に重力場の方程式の解があったら、(12)式の形の解だけを探しても見つからず見落としてしまう。

そのような特殊な形の解は存在するのだろうか。「バーコフの定理」として「球対称の時空では真空の計量はシュバルツシルト解(外部解)に限られる。」と主張するためには、そうでない特殊な形の解が存在しないことをきちんと確認しなければならない。そのことはどうやって確認すればよいのだろう。雑にいくつかの教科書を探しただけではそこまで書いてあるものは見つからなかった。頭のいい人がエレガントに考えればさらっと説明できるのかもしれないが、私にはよくわからないので、蛇足かもしれないが愚直に特殊な形の解を仮定して矛盾が生じることを示すことにしたい。

5.1 第一の座標変換ができない場合

(5)・(6)式で表される第一の座標変換は 𝑟 の代わりに 𝑟′ を使うようにする変換である。 𝐷(𝑤, 𝑟) が 𝑟 に対して単調増加または単調減少であれば、問題なく変換や逆変換ができる。増えたり減ったりする関数であっても、増えるところと減るところに区切って区分的に考えれば(範囲は制限されるが)座標変換できるはずだ。問題なのは 𝐷(𝑤, 𝑟) が実は 𝑟 に依存しない場合である。 𝑟 を動径座標だと考えるならば、これは同時刻であれば内側の球面も外側の球面も大きさが同じだという、ちょっと変わった時空であるが、球対称という条件は満たしているだろう。

𝐷(𝑤, 𝑟) = 𝐷(𝑤) の場合

𝐷(𝑤, 𝑟) が 𝑟 に依存しないとき、(4)式 d𝑠2= 𝐹(𝑤,𝑟)d𝑤2 +2𝐻(𝑤,𝑟)d𝑤d𝑟 +𝐺(𝑤,𝑟)d𝑟2 +{𝐷(𝑤)}2 (d𝜃2+sin2𝜃d𝜑2) (71) と書ける。これだと(6)式の変換が存在しないので(7)式のような形に変形することができない。

(71)式の形の解が存在しなければよいのだが、……実はこれは存在する。しかし心配する必要はない。この形で得られる解は単に、3節で得られた解の 𝑤 と 𝑟 を入れ替えただけのものだからだ。どの座標軸をどんな名前で呼んで第何成分とするかは人間が勝手に決めるものだから、物理的にはそれらは同じ解である。そう言われてみれば(4)式は 𝑤 と 𝑟 を入れ替えても実質的に何も変わらないことがわかる。関数 𝐹 と 𝐺 の名前や符号は変わるがそれらが変わったところで今の話に影響はない。だから1〜3節でやった方法の 𝑤 と 𝑟 を入れ替えれば(71)式の形の解が得られるのである。解をこの形で表示すれば、シュバルツシルト半径の内側で 𝑤 が時間座標、 𝑟 が空間座標になるので、ブラックホールに落ちた人にとってはこちらの形式の方が便利かもしれない。

𝐷(𝑤, 𝑟) = 𝐷𝑐 の場合

𝐷(𝑤, 𝑟) が 𝑟 にも 𝑤 にも依存せず定数 𝐷𝑐 になるとき、(4)式 d𝑠2= 𝐹(𝑤,𝑟)d𝑤2 +2𝐻(𝑤,𝑟)d𝑤d𝑟 +𝐺(𝑤,𝑟)d𝑟2 +𝐷𝑐2 (d𝜃2+sin2𝜃d𝜑2) (72) と書ける。この場合は1節でやった方法の 𝑤 と 𝑟 を入れ替えてもやはり第一の座標変換ができない。そこで直接(72)式の形の解を探すことにする。

この場合、計量テンソル 𝑔𝜇𝜈 は (𝑔𝜇𝜈)= ( 𝐹𝐻00 𝐻𝐺00 00𝐷𝑐20 000𝐷𝑐2sin2𝜃 ) (73) であり、 𝑔𝜇𝜈 は (𝑔𝜇𝜈)= ( 𝐺𝐹𝐺+𝐻2 𝐻𝐹𝐺+𝐻2 0 0 𝐻𝐹𝐺+𝐻2 𝐹𝐹𝐺+𝐻2 0 0 001𝐷𝑐20 0 0 0 1𝐷𝑐2sin2𝜃 ) (74) である。そして計量テンソルの微分のうち0でないものは ∂𝑔00∂𝑥0=𝐹˙ , ∂𝑔01∂𝑥0= ∂𝑔10∂𝑥0= 𝐻˙ , ∂𝑔11∂𝑥0=𝐺˙ , ∂𝑔00∂𝑥1=𝐹 , ∂𝑔01∂𝑥1= ∂𝑔10∂𝑥1= 𝐻 , ∂𝑔11∂𝑥1=𝐺 , ∂𝑔33∂𝑥2= 2𝐷𝑐2sin𝜃cos𝜃 (75) である。

続いてクリストッフェル記号を求めるのだが、計量テンソルが対角行列ではないので、「計量が対角行列のときに限って使えるクリストッフェル記号の公式」は使えない。だから定義どおりの式を使って、場合分けして(74)式と見比べながら0でないかもしれない項だけを残して途中まで計算すると、 𝛤0𝜇𝜈 = 12𝑔0𝜌 ( ∂𝑔𝜈𝜌∂𝑥𝜇+ ∂𝑔𝜇𝜌∂𝑥𝜈 ∂𝑔𝜇𝜈∂𝑥𝜌 ) = 12 { 𝑔00 ( ∂𝑔𝜈0∂𝑥𝜇+ ∂𝑔𝜇0∂𝑥𝜈 ∂𝑔𝜇𝜈∂𝑥0 ) + 𝑔01 ( ∂𝑔𝜈1∂𝑥𝜇+ ∂𝑔𝜇1∂𝑥𝜈 ∂𝑔𝜇𝜈∂𝑥1 ) } 𝛤1𝜇𝜈 = 12𝑔1𝜌 ( ∂𝑔𝜈𝜌∂𝑥𝜇+ ∂𝑔𝜇𝜌∂𝑥𝜈 ∂𝑔𝜇𝜈∂𝑥𝜌 ) = 12 { 𝑔10 ( ∂𝑔𝜈0∂𝑥𝜇+ ∂𝑔𝜇0∂𝑥𝜈 ∂𝑔𝜇𝜈∂𝑥0 ) + 𝑔11 ( ∂𝑔𝜈1∂𝑥𝜇+ ∂𝑔𝜇1∂𝑥𝜈 ∂𝑔𝜇𝜈∂𝑥1 ) } 𝛤2𝜇𝜈 = 12𝑔2𝜌 ( ∂𝑔𝜈𝜌∂𝑥𝜇+ ∂𝑔𝜇𝜌∂𝑥𝜈 ∂𝑔𝜇𝜈∂𝑥𝜌 ) = 12 𝑔22 ( ∂𝑔𝜈2∂𝑥𝜇+ ∂𝑔𝜇2∂𝑥𝜈 ∂𝑔𝜇𝜈∂𝑥2 ) 𝛤3𝜇𝜈 = 12𝑔3𝜌 ( ∂𝑔𝜈𝜌∂𝑥𝜇+ ∂𝑔𝜇𝜌∂𝑥𝜈 ∂𝑔𝜇𝜈∂𝑥𝜌 ) = 12 𝑔33 ( ∂𝑔𝜈3∂𝑥𝜇+ ∂𝑔𝜇3∂𝑥𝜈 ∂𝑔𝜇𝜈∂𝑥3 ) のようになる。これらと(75)式を見比べれば、0でないかもしれない成分だけを拾い上げるのはそれほど手間ではない。その結果、クリストッフェル記号のうち0でない成分は以下のようになる。 𝛤000 = (面倒なので省略) 𝛤001= 𝛤010 = (面倒なので省略) 𝛤011 = (面倒なので省略) 𝛤100 = (面倒なので省略) 𝛤101= 𝛤110 = (面倒なので省略) 𝛤111 = (面倒なので省略) 𝛤233 = sin𝜃cos𝜃 𝛤323= 𝛤332 = cot𝜃 これを元にリッチテンソルの第(2, 2)成分を計算してみよう。 𝑅22 = ∂𝛤𝜆22∂𝑥𝜆 ∂𝛤𝜆2𝜆∂𝑥2 + 𝛤𝜎22 𝛤𝜆𝜎𝜆 𝛤𝜎2𝜆 𝛤𝜆𝜎2 = 0 ∂𝛤323∂𝑥2 +0 𝛤323 𝛤332 =∂𝜃cot𝜃cot𝜃cot𝜃 = (1sin2𝜃) cot2𝜃 = 1sin2𝜃 cos2𝜃sin2𝜃 =1(76) 恒等的に1になってしまった。ところで解くべき方程式は重力場の方程式 𝐺𝜇𝜈=0 (1)式 であるが、これは 𝑅𝜇𝜈=0 (2)式 と等価なので(2)式を解いてもよいのだった。ところが(76)式はどうやっても(2)式を満たすことはできない。よって(72)(73)式の形の解は存在しないことがわかる。

5.2 第二の座標変換ができない場合

続いて、第一の座標変換はできるが第二の座標変換ができない場合を考えよう。この場合は(7)式の形までは簡略化できる。

(8)〜(11)式で表される第二の座標変換は 𝑤 の代わりに 𝑤′ を使うようにする変換である。1節で書いたように、恒等的に 𝐽(𝑤, 𝑟′) = 0 だとこの変換はできない。そのとき(7)式 d𝑠2 = 2𝐾(𝑤,𝑟)d𝑤d𝑟 +𝐿(𝑤,𝑟)d𝑟2 +𝑟2 (d𝜃2+sin2𝜃d𝜑2) と書けるが、第一の座標変換をする前のことはもう忘れて構わないから、面倒だしこの後で微分と紛らわしいので 𝑟 についているプライム ′ は撤去して d𝑠2 = 2𝐾(𝑤,𝑟)d𝑤d𝑟 +𝐿(𝑤,𝑟)d𝑟2 +𝑟2 (d𝜃2+sin2𝜃d𝜑2) (77) と書くことにしよう。この計量は 𝑔₀₀ = 0 なので 𝑤 方向が時間的でなく光的になっている。仮に 𝐿 > 0 ならば、 𝐾 > 0 の場所ではあらゆる物体は 𝑟 が減少する方向にしか動けないし 𝐾 < 0 の場所ではあらゆる物体は 𝑟 が増加する方向にしか動けないという、ちょっと変わった時空であるが、球対称という条件は満たしているだろう。

この場合、計量テンソル 𝑔𝜇𝜈 は (𝑔𝜇𝜈)= ( 0𝐾00 𝐾𝐿00 00𝑟20 000𝑟2sin2𝜃 ) (78) であり、 𝑔𝜇𝜈 は (𝑔𝜇𝜈)= ( 𝐿𝐾21𝐾00 1𝐾000 001𝑟20 0 0 0 1𝑟2sin2𝜃 ) (79) である。そして計量テンソルの微分のうち0でないものは ∂𝑔01∂𝑥0= ∂𝑔10∂𝑥0= 𝐾˙ , ∂𝑔11∂𝑥0=𝐿˙ , ∂𝑔01∂𝑥1= ∂𝑔10∂𝑥1= 𝐾 , ∂𝑔11∂𝑥1=𝐿 , ∂𝑔22∂𝑥1=2𝑟 , ∂𝑔33∂𝑥1= 2𝑟sin2𝜃 , ∂𝑔33∂𝑥2= 2𝑟2sin𝜃cos𝜃 (80) である。

続いてクリストッフェル記号を求めるのだが、計量テンソルが対角行列ではないので、「計量が対角行列のときに限って使えるクリストッフェル記号の公式」は使えない。だから定義どおりの式を使って、場合分けして(79)式と見比べながら0でないかもしれない項だけを残して途中まで計算すると、 𝛤0𝜇𝜈 = 12𝑔0𝜌 ( ∂𝑔𝜈𝜌∂𝑥𝜇+ ∂𝑔𝜇𝜌∂𝑥𝜈 ∂𝑔𝜇𝜈∂𝑥𝜌 ) = 12 { 𝑔00 ( ∂𝑔𝜈0∂𝑥𝜇+ ∂𝑔𝜇0∂𝑥𝜈 ∂𝑔𝜇𝜈∂𝑥0 ) + 𝑔01 ( ∂𝑔𝜈1∂𝑥𝜇+ ∂𝑔𝜇1∂𝑥𝜈 ∂𝑔𝜇𝜈∂𝑥1 ) } 𝛤1𝜇𝜈 = 12𝑔1𝜌 ( ∂𝑔𝜈𝜌∂𝑥𝜇+ ∂𝑔𝜇𝜌∂𝑥𝜈 ∂𝑔𝜇𝜈∂𝑥𝜌 ) = 12 𝑔10 ( ∂𝑔𝜈0∂𝑥𝜇+ ∂𝑔𝜇0∂𝑥𝜈 ∂𝑔𝜇𝜈∂𝑥0 ) 𝛤2𝜇𝜈 = 12𝑔2𝜌 ( ∂𝑔𝜈𝜌∂𝑥𝜇+ ∂𝑔𝜇𝜌∂𝑥𝜈 ∂𝑔𝜇𝜈∂𝑥𝜌 ) = 12 𝑔22 ( ∂𝑔𝜈2∂𝑥𝜇+ ∂𝑔𝜇2∂𝑥𝜈 ∂𝑔𝜇𝜈∂𝑥2 ) 𝛤3𝜇𝜈 = 12𝑔3𝜌 ( ∂𝑔𝜈𝜌∂𝑥𝜇+ ∂𝑔𝜇𝜌∂𝑥𝜈 ∂𝑔𝜇𝜈∂𝑥𝜌 ) = 12 𝑔33 ( ∂𝑔𝜈3∂𝑥𝜇+ ∂𝑔𝜇3∂𝑥𝜈 ∂𝑔𝜇𝜈∂𝑥3 ) のようになる。これらと(80)式を見比べれば、0でないかもしれない成分だけを拾い上げるのはそれほど手間ではない。その結果、クリストッフェル記号のうち0でない成分は以下のようになる。 𝛤000 = 𝐾˙𝐾 𝛤001= 𝛤010 = 𝐿˙2𝐾 𝛤011 = (面倒なので省略) 𝛤022 = 𝑟𝐾 𝛤033 = 𝑟𝐾sin2𝜃 𝛤111 = (面倒なので省略) 𝛤212= 𝛤221 = 1𝑟 𝛤233 = sin𝜃cos𝜃 𝛤313= 𝛤331 = 1𝑟 𝛤323= 𝛤332 = cot𝜃 これを元にリッチテンソルの第(0, 0)成分と第(2, 2)成分を計算してみよう。 𝑅00 = ∂𝛤𝜆00∂𝑥𝜆 ∂𝛤𝜆0𝜆∂𝑥0 + 𝛤𝜎00 𝛤𝜆𝜎𝜆 𝛤𝜎0𝜆 𝛤𝜆𝜎0 = ∂𝛤000∂𝑥0 ∂𝛤000∂𝑥0 +0 𝛤000 𝛤000 = (𝛤000)2 =𝐾˙2𝐾2 (81) 𝑅22 = ∂𝛤𝜆22∂𝑥𝜆 ∂𝛤𝜆2𝜆∂𝑥2 + 𝛤𝜎22 𝛤𝜆𝜎𝜆 𝛤𝜎2𝜆 𝛤𝜆𝜎2 = ∂𝛤022∂𝑥0 ∂𝛤323∂𝑥2 +0 𝛤323 𝛤332 = ∂𝑤(𝑟𝐾) ∂𝜃cot𝜃 cot𝜃cot𝜃 = 𝐾˙𝑟𝐾2 (1sin2𝜃) cot2𝜃 = 𝐾˙𝑟𝐾2 +1sin2𝜃 cos2𝜃sin2𝜃 =𝐾˙𝑟𝐾2+1 (82) 解くべき方程式と等価な方程式は 𝑅𝜇𝜈=0(2)式 であったから、これと(81)式より、𝐾˙=0 となる。しかしそれを(82)式に代入すると 𝑅₂₂ = 1 になってしまい、これではどうやっても(2)式を満たすことはできない。よって(77)(78)式の形の解は存在しないことがわかる。

以上により、(4)式から(12)式に変形できないような特殊な形の解を見落としている心配はなく、球対称で真空の解は確かに(70)式しかないと言えるだろう。

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