バーコフの定理(1)

重力場の方程式の自明でない厳密解の中で最も単純なものとして、別の記事で球対称・定常・真空の解であるシュバルツシルト解(外部解)を導出した。それは物理的には、孤立した球対称・定常の天体の外部で成り立つ解である。あのときはそう簡単に解けそうにない重力場の方程式の厳密解をどうにかして1個でもいいから見つけるために厳しい条件を課したのだった。そして無事に解を得ることができた。

そこで今度は、「定常」の条件を取っ払って時間変化しても構わないことにしてみよう。しかし定常でない天体の内部の解を求めるのは大変なので、天体が(球対称を保ちながら)何らかの時間変化をしたと仮定して外部の計量にどのような時間変化が許されるかを求める。重力の源である天体が球対称なのだから、外部の計量も時間変化しようとも球対称にはなっているはずだ。

目次

1. 条件を式で表す

重力場の方程式

重力場の方程式は一般に 𝐺𝜇𝜈+𝛬𝑔𝜇𝜈 =𝜅𝑇𝜇𝜈 のような形で書かれる(ただしどれかの項の符号が逆になる流儀もある)。 𝐺𝜇𝜈 はアインシュタインテンソル、 𝑔𝜇𝜈 は計量テンソル、 𝑇𝜇𝜈 はエネルギー運動量テンソルである。 𝛬 と 𝜅 は定数である。

シュバルツシルト解(外部解)のときと同様に、真空であるから 𝑇𝜇𝜈 = 0 と置き、宇宙定数 𝛬 はゼロとして、混合テンソルで考えることにすれば、解くべき方程式は 𝐺𝜇𝜈=0 (1) である。

ところでシュバルツシルト解(外部解)の記事の3.1節で説明したように、(1)式を解く代わりに等価な方程式 𝑅𝜇𝜈=0(2) (𝑅𝜇𝜈 はリッチテンソル)を解く方法があり、今の問題もその方が楽だというのが定説である。しかしここではあえて 𝐺𝜇𝜈 を未知関数で表して(1)式を解く方法を採用する。その理由は単に、(1)式(2)式よりも(作るのは大変だが)できあがりの見た目が簡潔であり解きやすいし解き方の説明が楽だからという、好みの問題である。特に理由がなければわざわざこのやり方をまねする必要はない。

座標系

座標系の形はシュバルツシルト解のときと同様に次のように仮定する。

𝑥 = 𝑤
時間座標(未来方向が正)
𝑥¹ = 𝑟
動径座標
𝑥² = 𝜃
角度座標(緯度:北極が0)
𝑥³ = 𝜑
角度座標(経度)

ただし、まだ方程式が解けたわけではないので、上に書いた座標の意味は仮定である。

計量テンソル

計量テンソルは球対称であることを使えば、シュバルツシルト解(外部解)の記事の(5)式を導くまでの理屈と同じ考え方が適用できる。ただし今は時間にも依存するので、 (𝑔𝜇𝜈)= ( 𝐹(𝑤,𝑟) 𝐻(𝑤,𝑟) 0 0 𝐻(𝑤,𝑟) 𝐺(𝑤,𝑟) 0 0 0 0 {𝐷(𝑤,𝑟)}2 0 0 0 0 {𝐷(𝑤,𝑟)}2sin2𝜃 ) (3) のように表しておく。 𝐷(𝑤, 𝑟), 𝐹(𝑤, 𝑟), 𝐺(𝑤, 𝑟), 𝐻(𝑤, 𝑟) は未知関数である。 𝑥 = 𝑤 は時間だと仮定したので、 𝑔₀₀ には最初からマイナスをつけておいた。これが球対称な時空の計量テンソルである。線素の式は d𝑠2= 𝐹(𝑤,𝑟)d𝑤2 +2𝐻(𝑤,𝑟)d𝑤d𝑟 +𝐺(𝑤,𝑟)d𝑟2 +{𝐷(𝑤,𝑟)}2 (d𝜃2+sin2𝜃d𝜑2) (4) のようになる。

計量テンソルの簡略化

ここでやることの流れもシュバルツシルト解(外部解)のときとほとんど同じだが、関数の引数が増えた分だけ少し複雑になる。退屈な式変形が続くが、要はうまく座標変換することで(4)式(12)式の形に変形できることを示すだけである。「そんなことは自明だ。」と思える人は(12)式まで飛ばしてもらって構わない。

では座標変換の計算を始めよう。(3)式の未知関数は4個であるが、これをもっと減らしたい。そのためには次のように考えればよい。

仮に(1)式が解けて(3)式の未知関数がすべて求まったとしよう。ここで次のような座標変換をする。 𝑟 𝑟=𝐷(𝑤,𝑟) (5) これの逆変換を 𝑟 𝑟=𝑟(𝑤,𝑟) (6) と書くことにする。このとき d𝑟 = ∂𝑟∂𝑤d𝑤+∂𝑟∂𝑟d𝑟 d𝑟2 = { ∂𝑟∂𝑤d𝑤+∂𝑟∂𝑟d𝑟 } 2 = (∂𝑟∂𝑤)2d𝑤2+ 2∂𝑟∂𝑤∂𝑟∂𝑟d𝑤d𝑟+ (∂𝑟∂𝑟)2 d𝑟2 であるから、これらを(4)式に代入して線素を新座標で表すと d𝑠2 = 𝐹(𝑤,𝑟)d𝑤2 +2𝐻(𝑤,𝑟)d𝑤d𝑟 +𝐺(𝑤,𝑟)d𝑟2 +{𝐷(𝑤,𝑟)}2 (d𝜃2+sin2𝜃d𝜑2) = 𝐹(𝑤,𝑟)d𝑤2 +2𝐻(𝑤,𝑟)d𝑤 ( ∂𝑟∂𝑤d𝑤+∂𝑟∂𝑟d𝑟 ) +𝐺(𝑤,𝑟) { (∂𝑟∂𝑤)2d𝑤2+ 2∂𝑟∂𝑤∂𝑟∂𝑟d𝑤d𝑟+ (∂𝑟∂𝑟)2 d𝑟2 } +𝑟2 (d𝜃2+sin2𝜃d𝜑2) = 𝐹(𝑤,𝑟)d𝑤2 +2𝐻(𝑤,𝑟)∂𝑟∂𝑤d𝑤2 + 2𝐻(𝑤,𝑟)∂𝑟∂𝑟 d𝑤d𝑟 + 𝐺(𝑤,𝑟)(∂𝑟∂𝑤)2 d𝑤2 + 2𝐺(𝑤,𝑟) ∂𝑟∂𝑤∂𝑟∂𝑟d𝑤d𝑟 + 𝐺(𝑤,𝑟) (∂𝑟∂𝑟)2 d𝑟2 + 𝑟2 (d𝜃2+sin2𝜃d𝜑2) = { 𝐹(𝑤,𝑟) +2𝐻(𝑤,𝑟)∂𝑟∂𝑤 + 𝐺(𝑤,𝑟)(∂𝑟∂𝑤)2 } d𝑤2 + { 2𝐻(𝑤,𝑟)∂𝑟∂𝑟+ 2𝐺(𝑤,𝑟) ∂𝑟∂𝑤∂𝑟∂𝑟 } d𝑤d𝑟 + 𝐺(𝑤,𝑟) (∂𝑟∂𝑟)2 d𝑟2 + 𝑟2 (d𝜃2+sin2𝜃d𝜑2) = [ 𝐹(𝑤,𝑟(𝑤,𝑟)) 2𝐻(𝑤,𝑟(𝑤,𝑟)) ∂𝑟(𝑤,𝑟)∂𝑤 𝐺(𝑤,𝑟(𝑤,𝑟)) {∂𝑟(𝑤,𝑟)∂𝑤}2 ] d𝑤2 + 2 [ { 𝐻(𝑤,𝑟(𝑤,𝑟))+ 𝐺(𝑤,𝑟(𝑤,𝑟)) ∂𝑟(𝑤,𝑟)∂𝑤 } ∂𝑟(𝑤,𝑟)∂𝑟 ] d𝑤d𝑟 + [ 𝐺(𝑤,𝑟(𝑤,𝑟)) { ∂𝑟(𝑤,𝑟)∂𝑟 } 2 ] d𝑟2 + 𝑟2 (d𝜃2+sin2𝜃d𝜑2) のようになる。一見するとややこしくなったが、最後の3個の角括弧内は 𝑤 と 𝑟′ の関数であるから、これらを改めてそれぞれ 𝐽(𝑤, 𝑟′), 𝐾(𝑤, 𝑟′), 𝐿(𝑤, 𝑟′) と書き直せば d𝑠2 = 𝐽(𝑤,𝑟)d𝑤2 +2𝐾(𝑤,𝑟)d𝑤d𝑟 +𝐿(𝑤,𝑟)d𝑟2 +𝑟2 (d𝜃2+sin2𝜃d𝜑2) (7) である。座標変換によってこの形に変形できるなら、最初から 𝑟 でなく 𝑟′ を使って解くことにすれば 𝑔₂₂ と 𝑔₃₃ から未知関数を排除できるのだ。

さらに次のような座標変換をする。 𝑤 𝑤=𝑤(𝑤,𝑟) (8) これの逆変換を 𝑤 𝑤=𝑤(𝑤,𝑟) (9) と書くことにする。ただし ∂𝑤(𝑤,𝑟)∂𝑤 >0 (10) ∂𝑤(𝑤,𝑟)∂𝑟 = 𝐾(𝑤,𝑟) 𝐽(𝑤,𝑟) (11) が成り立つように(8)式の 𝑤′(𝑤, 𝑟′) を決めるものとする。(11)式の意味は、新座標 𝑤′ が一定となるような曲線を 𝑟′‐𝑤 面に描いたとき、その曲線の傾きが(11)式の右辺に等しいということである。だから恒等的に 𝐽(𝑤, 𝑟′) = 0 になっているのでもない限り(10)・(11)式を満たす 𝑤′(𝑤, 𝑟′) は存在するはずだ。このとき d𝑤 = ∂𝑤∂𝑤d𝑤+ ∂𝑤∂𝑟d𝑟 = ∂𝑤∂𝑤d𝑤+ 𝐾(𝑤,𝑟) 𝐽(𝑤,𝑟) d𝑟 d𝑤2 = { ∂𝑤∂𝑤d𝑤+ 𝐾(𝑤,𝑟) 𝐽(𝑤,𝑟) d𝑟 } 2 = (∂𝑤∂𝑤)2 d𝑤2 + 2 𝐾(𝑤,𝑟) 𝐽(𝑤,𝑟) ∂𝑤∂𝑤 d𝑤d𝑟 + { 𝐾(𝑤,𝑟) 𝐽(𝑤,𝑟) } 2 d𝑟2 であるから、これらを(7)式に代入すると線素は d𝑠2 = 𝐽(𝑤,𝑟)d𝑤2 +2𝐾(𝑤,𝑟)d𝑤d𝑟 +𝐿(𝑤,𝑟)d𝑟2 +𝑟2 (d𝜃2+sin2𝜃d𝜑2) = 𝐽(𝑤,𝑟) [ (∂𝑤∂𝑤)2 d𝑤2 + 2 𝐾(𝑤,𝑟) 𝐽(𝑤,𝑟) ∂𝑤∂𝑤 d𝑤d𝑟 + { 𝐾(𝑤,𝑟) 𝐽(𝑤,𝑟) } 2 d𝑟2 ] +2𝐾(𝑤,𝑟) { ∂𝑤∂𝑤d𝑤+ 𝐾(𝑤,𝑟) 𝐽(𝑤,𝑟) d𝑟 } d𝑟 +𝐿(𝑤,𝑟)d𝑟2 +𝑟2 (d𝜃2+sin2𝜃d𝜑2) = 𝐽(𝑤,𝑟) (∂𝑤∂𝑤)2 d𝑤2 2𝐾(𝑤,𝑟) ∂𝑤∂𝑤d𝑤d𝑟 {𝐾(𝑤,𝑟)}2 𝐽(𝑤,𝑟) d𝑟2 + 2𝐾(𝑤,𝑟) ∂𝑤∂𝑤d𝑤d𝑟 + 2 {𝐾(𝑤,𝑟)}2 𝐽(𝑤,𝑟) d𝑟2 +𝐿(𝑤,𝑟)d𝑟2 +𝑟2 (d𝜃2+sin2𝜃d𝜑2) = 𝐽(𝑤,𝑟) (∂𝑤∂𝑤)2 d𝑤2 + [ {𝐾(𝑤,𝑟)}2 𝐽(𝑤,𝑟) +𝐿(𝑤,𝑟) ] d𝑟2 +𝑟2 (d𝜃2+sin2𝜃d𝜑2) = [ 𝐽 ( 𝑤(𝑤,𝑟),𝑟 ) { ∂𝑤(𝑤,𝑟)∂𝑤 } 2 ] d𝑤2 + [ { 𝐾 ( 𝑤(𝑤,𝑟),𝑟 ) } 2 𝐽 ( 𝑤(𝑤,𝑟),𝑟 ) + 𝐿 ( 𝑤(𝑤,𝑟),𝑟 ) ] d𝑟2 + 𝑟2 (d𝜃2+sin2𝜃d𝜑2) のようになる。最後の2個の角括弧内は 𝑤′ と 𝑟′ の関数であるから、これらを改めてそれぞれ 𝐴(𝑤′, 𝑟′), 𝐵(𝑤′, 𝑟′) と書き直せば d𝑠2 = 𝐴(𝑤,𝑟) d𝑤2 +𝐵(𝑤,𝑟) d𝑟2 +𝑟2 (d𝜃2+sin2𝜃d𝜑2) (12) である。座標変換によってこの形に変形できるなら、最初から 𝑤 でなく 𝑤′ を使って解くことにすれば計量テンソルの非対角成分はすべてゼロにできるのだ。

そういうわけで、 𝑤′ および 𝑟′ を改めて 𝑤 および 𝑟 と置けば線素は d𝑠2 = 𝐴(𝑤,𝑟)d𝑤2 +𝐵(𝑤,𝑟)d𝑟2 +𝑟2 (d𝜃2+sin2𝜃d𝜑2) であり、計量テンソルは (𝑔𝜇𝜈)= ( 𝐴(𝑤,𝑟)000 0𝐵(𝑤,𝑟)00 00𝑟20 000𝑟2sin2𝜃 ) (13) のように表される。これを(1)式に代入したものを解いて 𝐴(𝑤, 𝑟) および 𝐵(𝑤, 𝑟) を求めればよいというわけである。これは結局シュバルツシルト解(外部解)を導出したときに仮定した計量と同じ形であり、ただ未知関数の引数に 𝑤 が追加されただけの違いである。

ところで、座標変換をして(4)式から(12)式に至る過程で、仮に(5)式の逆変換((6)式)が存在しなかったり、恒等的に 𝐽(𝑤, 𝑟′) = 0 だったりすると、その座標変換ができないのであった。だからもしそんな解が存在していたら、(13)式から出発したらそれらの解を見落としてしまうかもしれない。しかしそのような特殊な状況のことを今ここで話すと話の流れが悪くなるので、それは後で5節で考えることにして、とりあえず(13)式を出発点としよう。

解の条件

未知関数 𝐴(𝑤, 𝑟) や 𝐵(𝑤, 𝑟) に何か条件はあるだろうか。仮に恒等的に 𝐴(𝑤, 𝑟) = 0 だとすると、計量テンソルの0行目と0列目がすべて0になるので 𝑥 (= 𝑤) 座標がまったく意味を持たなくなり、3次元になってしまう。これは4次元時空の解を求めたい前提に反する。 𝐵(𝑤, 𝑟) も同様である。したがって恒等的に 𝐴(𝑤, 𝑟) = 0 や 𝐵(𝑤, 𝑟) = 0 ではないこととする。それ以外には特に条件は付けないでおこう。

境界条件に関しては、無限遠で時空が平坦になるという境界条件を課している教科書もあるが、今の段階ではそれほど気にしなくてよい。むしろ、どんな解が許されるのかを調べようというのに、根拠もなく最初から解の範囲を狭めてしまうのは目的に反するだろう。境界条件を定めないと先に進めないような状況になったら考えればよいのである。あらかじめ結果を言っておくと、今の問題ではわざわざ「無限遠で平坦」という条件を課さなくてもその条件に合う解しか出てこないのだ。

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