シュバルツシルト解(外部解)の導出(4)

第3章 計算を楽にするための工夫

第2章でシュバルツシルト解の導出はとりあえず完了したが、解き方を工夫することで計算の手間を少し減らすことができる。

3.1 等価な方程式

第2章で解いた方程式は 𝐺𝜇𝜈=0 (3)式 であった。だが、スカラー曲率(リッチスカラー)を求めるところの最初に書いたように、アインシュタインテンソル 𝐺𝜇𝜈 を使わずに解く方法があるのだ。

 𝐺𝜇𝜈 の定義である(52)式(3)式に代入すると、 𝑅𝜇𝜈 12𝛿𝜇𝜈𝑅 = 0 (63) である。この式の両辺に 𝛿𝜈𝜇 をかけて縮約してみよう。 𝛿𝜈𝜇 ( 𝑅𝜇𝜈 12𝛿𝜇𝜈𝑅 ) = 0 𝛿𝜈𝜇 𝑅𝜇𝜈 12 𝛿𝜈𝜇 𝛿𝜇𝜈 𝑅 = 0 𝑅𝜇𝜇 12𝛿𝜇𝜇𝑅 = 0 𝑅124𝑅=0 𝑅2𝑅=0 𝑅=0 𝑅=0 のようになってスカラー曲率が0であることがわかる。これを(63)式に代入すると 𝑅𝜇𝜈=0(64) となる。つまり、アインシュタインテンソルが0ならスカラー曲率が0であり、さらにリッチテンソルも0である。逆にリッチテンソルが0なら、スカラー曲率も当然0であり、その結果アインシュタインテンソルも0になることはすぐにわかる。結局(3)式(64)式は等価なのだ。

リッチテンソルによる方程式

(3)式(64)式が等価だというなら、(3)式を解く代わりに(64)式を解いてもよいことになる。このやり方なら2.2節で 𝑅𝜇𝜈 の表式が求まった段階でそれを(64)式に代入すれば方程式の完成であり、スカラー曲率(リッチスカラー) 𝑅 やアインシュタインテンソル 𝐺𝜇𝜈 の表式を求める必要はなかったのだ。

(48)〜(51)式の 𝑅𝜇𝜈 を(64)式に代入すれば、対角成分は次のようになる。 𝑅00 = 𝐴2𝐴𝐵 + 𝐴𝐵4𝐴𝐵2 𝐴𝐴𝐵𝑟 +𝐴24𝐴2𝐵 =0 (65) 𝑅11 = 𝐴2𝐴𝐵 +𝐴24𝐴2𝐵 + 𝐴𝐵4𝐴𝐵2 +𝐵𝐵2𝑟 =0 (66) 𝑅22= 𝑅33 = 1𝐵𝑟2 +𝐵2𝐵2𝑟 +1𝑟2 𝐴2𝐴𝐵𝑟 =0 (67) そして非対角成分は 0 = 0 となり何もしなくても最初から成り立っている。しかしこれらは 𝐺𝜇𝜈 = 0 から素直なやり方で作った(53)〜(55)式に比べて複雑である。上から順に解けば未知関数が1個ずつ求まるなどという簡単な形にはなっていない。方程式を作るまでの計算で楽をした代わりに、解くために考える手間が少し増えるのだ。どうやって解いたらよいのだろうか。

第(1, 1)成分から第(0, 0)成分を引けば簡単な式になる点は(53)〜(55)式のときと同じである。そこで(66)式から(65)式を引いてみると、 𝑅11 𝑅00 = 𝐵𝐵2𝑟 +𝐴𝐴𝐵𝑟 = 0 𝐴𝐵+𝐴𝐵 𝐴𝐵2𝑟 = 0 𝐴𝐵+𝐴𝐵 = 0 (𝐴𝐵)=0 𝐴𝐵=𝑏 (𝑏は積分定数)(68) となる。2.1節の最後に書いたように 𝐵 = 0 は解ではないので、(68)式の両辺を 𝐵 で割れば 𝐴=𝑏𝐵(69) である。ついでに、すぐ後で使うためにこれを微分すると 𝐴=𝑏𝐵𝐵2 (70) である。次に、まだ使っていない(67)式(68)(70)式を代入すると、 1𝐵𝑟2 +𝐵2𝐵2𝑟 +1𝑟2 𝐴2𝐴𝐵𝑟 = 0 (67)式 1𝐵𝑟2 +𝐵2𝐵2𝑟 +1𝑟2 (𝑏𝐵𝐵2) 2𝑏𝑟 = 0 (68)(70)式を代入した。 1𝐵𝑟2 +𝐵2𝐵2𝑟 +1𝑟2 +𝐵2𝐵2𝑟 = 0 𝐵𝐵2𝑟 1𝐵𝑟2 +1𝑟2 = 0 という式ができる。これは(53)式の両辺を −1 倍しただけの実質的に同じ方程式であるから、まったく同様の変形をして、 𝐵=11𝑟𝑠𝑟 𝑟𝑠は積分定数)(71) のように 𝐵 が決まる。これを(69)式に代入すれば 𝐴=𝑏(1𝑟𝑠𝑟) (72) となって 𝐴 も決まる。2.1節の最後に書いたように 𝐴 = 0 は解ではないので、 𝑏 ≠ 0 である。

以上で連立微分方程式(65)〜(67)式の一般解が求まった……と考えるのは早計である。 𝑅 と 𝑅¹ に関しては 𝑅¹ − 𝑅 = 0 という条件を使っただけであり、(65)式の 𝑅 = 0 と(66)式の 𝑅¹ = 0 の2つが成り立っているかどうかはまだわからないのだ。今この2つは一方が成り立てば他方も自動的に成り立つので、両方を確認する必要はないがどちらか一方は確認しなければならない。この確認は検算などではなく、連立微分方程式の解を求める作業の一環であるから、サボってはいけない。もしかしたら成り立っておらず「解なし」が正解かもしれないのだ。

そういうわけでここでは(65)式の 𝑅 = 0 の方を確認する。そのため先に 𝐴 や 𝐵 の微分を求めておこう。 𝐴 については(72)式を微分して 𝐴 = 𝑏𝑟𝑠𝑟2 𝐴 = 2𝑏𝑟𝑠𝑟3 のようになる。 𝐵 については(71)式を微分して 𝐵 = 𝑟𝑠 𝑟2 (1𝑟𝑠𝑟)2 のようになる。これらを使うと(65)式の左辺は 𝑅00 = 𝐴2𝐴𝐵 + 𝐴𝐵4𝐴𝐵2 𝐴𝐴𝐵𝑟 +𝐴24𝐴2𝐵 = 1𝐴𝐵 ( 𝐴2 +141𝐵𝐴𝐵 𝐴𝑟 +𝐴24𝐴 ) = 1𝑏 [ (2𝑏𝑟𝑠𝑟3) 2 + 14(1𝑟𝑠𝑟) 𝑏𝑟𝑠𝑟2 { 𝑟𝑠 𝑟2 (1𝑟𝑠𝑟)2 } (𝑏𝑟𝑠𝑟2)𝑟 + (𝑏𝑟𝑠𝑟2)2 4𝑏(1𝑟𝑠𝑟) ] = 1𝑏 { 𝑏𝑟𝑠𝑟3 𝑏𝑟𝑠2 4𝑟4(1𝑟𝑠𝑟) 𝑏𝑟𝑠𝑟3 + 𝑏𝑟𝑠2 4𝑟4(1𝑟𝑠𝑟) } =0 となって0になるので、(65)式も満たされている。これで 𝑅¹ − 𝑅 = 0 と 𝑅 = 0 が成り立ったので、(66)式の 𝑅¹ = 0 も成り立つことがわかる。したがって(72)(71)式は連立微分方程式(65)〜(67)式の一般解であることがわかった。

これ以降の手順は2.3節(62)式以降と同じである。

2階共変テンソルによる方程式

ところで、すぐ上で解いた(64)式は1階反変1階共変テンソル 𝑅𝜇𝜈 に関する式であるが、この式は計量テンソルを掛けて添え字を下げれば2階共変テンソル 𝑅𝜇𝜈 に関する式 𝑅𝜇𝜈=0(73) になる。これを使えば方程式を作る作業はもっと楽になるのではないだろうか。2.2節では 𝑅𝜇𝜈 の表式を求めた後で 𝑅𝜇𝜈 の表式を求めたのであった。だが(73)式を使うならその必要もなく、 𝑅𝜇𝜈 の表式が求まった段階で方程式は完成する。多くの教科書に載っているのは(3)式(64)式ではなくこの(73)式を解くやり方である。

ということで(38)(47)式の 𝑅𝜇𝜈 を(73)式に代入すれば、対角成分は次のようになる。 𝑅00 = 𝐴2𝐵 𝐴𝐵4𝐵2 +𝐴𝐵𝑟 𝐴24𝐴𝐵 =0 (74) 𝑅11 = 𝐴2𝐴 +𝐴24𝐴2 +𝐴𝐵4𝐴𝐵 +𝐵𝐵𝑟 =0 (75) 𝑅22 = 1𝐵 +𝐵𝑟2𝐵2 +1 𝐴𝑟2𝐴𝐵 =0 (76) 𝑅33 = 𝑅22sin2𝜃=0 (77) そして非対角成分は 0 = 0 となり何もしなくても最初から成り立っている。しかしこれらは 𝑅𝜇𝜈 = 0 よりもさらに少しだけ複雑である。どれかの式どうしを単に足したり引いたりするだけでは簡単な式にならない。方程式を作るまでの計算でさらに楽をした代わりに、解くために考える手間がさらに少し増えるのだ。

だが、ここまでのやり方を実践してきたなら、ちょっと考えれば(74)〜(77)式も解けるはずだ。一言だけ書いておくと、 𝑅11𝐵+𝑅00𝐴 を計算すればよい。それは 𝑅¹ − 𝑅 に等しいから結局は先ほど(65)(68)式の辺りでやった計算と同じなのだ。今までと似た計算をまた書くのは面倒だからこの後の手順の説明は省略する。

以上で、等価な方程式を使うことによって方程式を作るまでの作業で楽をする工夫の説明は終わりである。

3.2 クリストッフェル記号の縮約

この節ではクリストッフェル記号の縮約を計算するための専用の公式を使った方法を紹介する。

公式の導入

2.2節リッチテンソル 𝑅𝜇𝜈 の表式を求めたときは 𝑅𝜇𝜈= ∂𝛤𝜆𝜇𝜈∂𝑥𝜆 ∂𝛤𝜆𝜇𝜆∂𝑥𝜈 + 𝛤𝜎𝜇𝜈 𝛤𝜆𝜎𝜆 𝛤𝜎𝜇𝜆 𝛤𝜆𝜎𝜈 (37)式 を使った。この第2項と第3項に 𝛤𝜆𝜇𝜆 とか 𝛤𝜆𝜎𝜆 というクリストッフェル記号の縮約が出てくる。これは定義どおりに計算してもよいのだが、 𝛤𝜆𝜇𝜆= (ln𝑔)∂𝑥𝜇 という公式を使うこともできる。ここで 𝑔 は計量テンソル 𝑔𝜇𝜈 を行列とみなしたときの行列式である。

この公式が成り立つ理由を説明する。まず相対性理論とは関係なく線形代数で一般的に、行列式の偏微分と逆行列との間に次のような関係がある。

正則行列 M の第 𝑖 行第 𝑗 列成分を 𝑚𝑖𝑗 とする。そして M の第 (𝑖, 𝑗) 余因子を 𝑚~𝑖𝑗 とする。第 (𝑖, 𝑗) 余因子とは、 M から第 𝑖 行と第 𝑗 列を取り除いた一回り小さい行列の行列式に (−1)𝑖+𝑗 をかけたもののことである。その定義から、 𝑚~𝑖𝑗 は M の第 𝑖 行の成分や第 𝑗 列の成分には一切依存せず、それ以外のすべての成分に依存することがわかる。このことは後で偏微分するときに必要になるので意識しておいてほしい。なお、今定義した 𝑚 等の添え字の 𝑖 や 𝑗 等についてはアインシュタインの縮約記法は適用しないこととする。同じ添え字が2回現れても ∑ がない限り和を取ってはならない。

このとき M の行列式は det(M)= 𝑖 𝑚𝑖𝑗𝑚~𝑖𝑗 (𝑗は何でもよい) のように表される。これは行列式を求める基本的な公式である。この添え字には注意が必要で、行番号 𝑖 は行数分だけ和を取る添え字であるが、列番号 𝑗 は何でもよいから1列だけ選ぶものであって和を取ってはならない。どの列を選んでも結果は同じである。逆に行を1行だけ選んで列で和を取っても構わないのだが、今両方やってもしょうがないのでここでは前者だけを考える。

これをある成分 𝑚𝑘𝑙 で偏微分することを考える。この偏微分は 𝑚𝑘𝑙 以外のすべての成分を固定して 𝑚𝑘𝑙 だけを動かしたときの変化率を求めるという意味である。それは {det(M)}∂𝑚𝑘𝑙 = ∂𝑚𝑘𝑙 𝑖 𝑚𝑖𝑗𝑚~𝑖𝑗 (𝑗は何でもよい)(78) のように表される。 𝑗 は何でもよいのだから 𝑗 = 𝑙 と選ぶのが得策である。そうすれば {det(M)}∂𝑚𝑘𝑙 = ∂𝑚𝑘𝑙 𝑖 𝑚𝑖𝑙𝑚~𝑖𝑙 = 𝑖 ( ∂𝑚𝑖𝑙∂𝑚𝑘𝑙 𝑚~𝑖𝑙 + 𝑚𝑖𝑙 𝑚~𝑖𝑙 ∂𝑚𝑘𝑙 ) = 𝑖 ( 𝛿𝑖𝑘𝑚~𝑖𝑙+0 ) =𝑚~𝑘𝑙 (79) のようになり、行列式の偏微分と余因子との関係が定まった。余談だが(78)式で仮に 𝑗 ≠ 𝑙 という得策でない方針をとると、 {det(M)}∂𝑚𝑘𝑙 = ∂𝑚𝑘𝑙 𝑖 𝑚𝑖𝑗𝑚~𝑖𝑗 = 𝑖 ( ∂𝑚𝑖𝑗∂𝑚𝑘𝑙 𝑚~𝑖𝑗 + 𝑚𝑖𝑗 𝑚~𝑖𝑗 ∂𝑚𝑘𝑙 ) = 𝑖(𝑘) 𝑚𝑖𝑗 𝑚~𝑖𝑗∂𝑚𝑘𝑙 𝑗𝑙 というややこしい表式になる((79)式とは表式が異なるだけで値は同じである)。

さて、 M の逆行列 M⁻¹ の成分 (𝑚⁻¹)𝑙𝑘 は (𝑚1)𝑙𝑘= 𝑚~𝑘𝑙det(M) である。これは逆行列を求める基本的な公式である。この式の 𝑚~𝑘𝑙 のところに(79)式を代入すれば、 (𝑚1)𝑙𝑘= 1det(M) {det(M)}∂𝑚𝑘𝑙 (80) という関係式が得られる。ここまでは線形代数の一般的な話である。

ここで話を相対性理論に戻して、(80)式の関係を計量テンソルに当てはめてみる。計量テンソル 𝑔𝜌𝜆 を行列とみなしたときの行列式を 𝑔 と書き、逆行列は 𝑔𝜌𝜆 であるから、これらを(80)式に代入すれば、 𝑔𝜆𝜌= 1𝑔∂𝑔∂𝑔𝜌𝜆 (81) となる。計量テンソルは対称テンソルであるから添え字の順番はどちらでもよいが、見やすいように(80)式に合わせておいた。では今から本題の 𝛤𝜆𝜇𝜆 を変形する。その途中で(81)式を使えば 𝛤𝜆𝜇𝜆 = 12 𝑔𝜆𝜌 ( ∂𝑔𝜌𝜆∂𝑥𝜇 + ∂𝑔𝜇𝜌∂𝑥𝜆 ∂𝑔𝜇𝜆∂𝑥𝜌 ) = 12 ( 𝑔𝜆𝜌∂𝑔𝜌𝜆∂𝑥𝜇 + 𝑔𝜆𝜌∂𝑔𝜇𝜌∂𝑥𝜆 𝑔𝜆𝜌∂𝑔𝜇𝜆∂𝑥𝜌 ) = 12 ( 𝑔𝜆𝜌∂𝑔𝜌𝜆∂𝑥𝜇 + 𝑔𝜌𝜆∂𝑔𝜇𝜆∂𝑥𝜌 𝑔𝜌𝜆∂𝑔𝜇𝜆∂𝑥𝜌 ) = 12 𝑔𝜆𝜌∂𝑔𝜌𝜆∂𝑥𝜇 = 12 1𝑔∂𝑔∂𝑔𝜌𝜆 ∂𝑔𝜌𝜆∂𝑥𝜇 (81)式を代入した。 = 121𝑔 ∂𝑔∂𝑥𝜇 = 12d(ln|𝑔|)d𝑔 ∂𝑔∂𝑥𝜇 = 12 (ln|𝑔|)∂𝑥𝜇 = (ln|𝑔|)∂𝑥𝜇 が得られる。4次元時空では 𝑔 は負であるから、絶対値を外せば 𝛤𝜆𝜇𝜆= (ln𝑔)∂𝑥𝜇 (82) となって、この節の最初の方で書いた公式が得られる。

公式の適用

では2.2節リッチテンソル 𝑅𝜇𝜈 の表式を求めた作業に(82)式を適用すればどのように楽になるのかやってみよう。まず行列式 𝑔 を計算するのであるが、今は計量テンソル 𝑔𝜌𝜆 は対角行列であるから対角成分の積を計算するだけでよくて、 𝑔 = 𝑔00 𝑔11 𝑔22 𝑔33 =𝐴𝐵𝑟4sin2𝜃 である。したがってクリストッフェル記号の縮約 𝛤𝜆𝜇𝜆 は 𝛤𝜆𝜇𝜆 = (ln𝑔)∂𝑥𝜇 = ∂𝑥𝜇 ln𝐴𝐵𝑟4sin2𝜃 = ∂𝑥𝜇 ln(𝐴𝐵𝑟2sin𝜃) = ∂𝑥𝜇 { 12ln|𝐴|+ 12ln|𝐵|+ 2ln(𝑟)+ ln(sin𝜃) } である。各成分を計算すれば、 𝛤𝜆0𝜆 = ∂𝑤 { 12ln|𝐴|+ 12ln|𝐵|+ 2ln(𝑟)+ ln(sin𝜃) } =0(83) 𝛤𝜆1𝜆 = ∂𝑟 { 12ln|𝐴|+ 12ln|𝐵|+ 2ln(𝑟)+ ln(sin𝜃) } = 𝐴2𝐴+ 𝐵2𝐵+ 2𝑟 (84) 𝛤𝜆2𝜆 = ∂𝜃 { 12ln|𝐴|+ 12ln|𝐵|+ 2ln(𝑟)+ ln(sin𝜃) } =cos𝜃sin𝜃 =cot𝜃(85) 𝛤𝜆3𝜆 = ∂𝜑 { 12ln|𝐴|+ 12ln|𝐵|+ 2ln(𝑟)+ ln(sin𝜃) } =0(86) のようになる。そしてこれを微分した ∂𝛤𝜆𝜇𝜆∂𝑥𝜈 は、0でない成分は ∂𝛤𝜆1𝜆∂𝑥1 = 𝐴2𝐴 𝐴22𝐴2 +𝐵2𝐵 𝐵22𝐵2 2𝑟2 (87) ∂𝛤𝜆2𝜆∂𝑥2 = 1sin2𝜃 (88) の2個だけである。では(83)(88)式を駆使してリッチテンソルの各成分の表式を求めよう。縮約でない残りの成分は2.2節と同じく(24)(34)式を使う。

まず対角成分は次のようになる。 𝑅00 = ∂𝛤𝜆00∂𝑥𝜆 ∂𝛤𝜆0𝜆∂𝑥0 + 𝛤𝜎00 𝛤𝜆𝜎𝜆 𝛤𝜎0𝜆 𝛤𝜆𝜎0 = ∂𝛤100∂𝑥1 0 + 𝛤100 𝛤𝜆1𝜆 ( 𝛤100 𝛤010 + 𝛤001 𝛤100 ) = ∂𝛤100∂𝑥1 + 𝛤100 ( 𝛤𝜆1𝜆 2𝛤010 ) = ( 𝐴2𝐵 𝐴𝐵2𝐵2 ) + 𝐴2𝐵 { ( 𝐴2𝐴+ 𝐵2𝐵+ 2𝑟 ) 2𝐴2𝐴 } = ( 𝐴2𝐵 𝐴𝐵2𝐵2 ) + 𝐴2𝐵 ( 𝐵2𝐵+ 2𝑟 𝐴2𝐴 ) = 𝐴2𝐵 𝐴𝐵2𝐵2 +𝐴𝐵4𝐵2 +𝐴𝐵𝑟 𝐴24𝐴𝐵 = 𝐴2𝐵 𝐴𝐵4𝐵2 +𝐴𝐵𝑟 𝐴24𝐴𝐵 𝑅11 = ∂𝛤𝜆11∂𝑥𝜆 ∂𝛤𝜆1𝜆∂𝑥1 + 𝛤𝜎11 𝛤𝜆𝜎𝜆 𝛤𝜎1𝜆 𝛤𝜆𝜎1 = ∂𝛤111∂𝑥1 ∂𝛤𝜆1𝜆∂𝑥1 + 𝛤111 𝛤𝜆1𝜆 ( 𝛤010 𝛤001 + 𝛤111 𝛤111 + 𝛤212 𝛤221 + 𝛤313 𝛤331 ) = ∂𝛤111∂𝑥1 ∂𝛤𝜆1𝜆∂𝑥1 + 𝛤111 𝛤𝜆1𝜆 (𝛤010)2 (𝛤111)2 (𝛤212)2 (𝛤313)2 = ( 𝐵2𝐵 𝐵22𝐵2 ) ( 𝐴2𝐴 𝐴22𝐴2 +𝐵2𝐵 𝐵22𝐵2 2𝑟2 ) + 𝐵2𝐵 ( 𝐴2𝐴+ 𝐵2𝐵+ 2𝑟 ) (𝐴2𝐴)2 (𝐵2𝐵)2 (1𝑟)2 (1𝑟)2 = 𝐵2𝐵 𝐵22𝐵2 𝐴2𝐴 +𝐴22𝐴2 𝐵2𝐵 +𝐵22𝐵2 +2𝑟2 +𝐴𝐵4𝐴𝐵 +𝐵24𝐵2 +𝐵𝐵𝑟 𝐴24𝐴2 𝐵24𝐵2 1𝑟2 1𝑟2 = 𝐴2𝐴 +𝐴24𝐴2 +𝐴𝐵4𝐴𝐵 +𝐵𝐵𝑟 𝑅22 = ∂𝛤𝜆22∂𝑥𝜆 ∂𝛤𝜆2𝜆∂𝑥2 + 𝛤𝜎22 𝛤𝜆𝜎𝜆 𝛤𝜎2𝜆 𝛤𝜆𝜎2 = ∂𝛤122∂𝑥1 ∂𝛤𝜆2𝜆∂𝑥2 + 𝛤122 𝛤𝜆1𝜆 ( 𝛤221 𝛤122 + 𝛤122 𝛤212 + 𝛤323 𝛤332 ) = ∂𝛤122∂𝑥1 ∂𝛤𝜆2𝜆∂𝑥2 + 𝛤122 ( 𝛤𝜆1𝜆 2𝛤221 ) (𝛤323)2 = ( 1𝐵+𝐵𝑟𝐵2 ) (1sin2𝜃) + (𝑟𝐵) { ( 𝐴2𝐴+ 𝐵2𝐵+ 2𝑟 ) 21𝑟 } cot2𝜃 = 1𝐵 +𝐵𝑟𝐵2 +1sin2𝜃 𝑟𝐵 ( 𝐴2𝐴+ 𝐵2𝐵 ) cos2𝜃sin2𝜃 = 1𝐵 +𝐵𝑟𝐵2 +1cos2𝜃sin2𝜃 𝐴𝑟2𝐴𝐵 𝐵𝑟2𝐵2 = 1𝐵 +𝐵𝑟2𝐵2 +1 𝐴𝑟2𝐴𝐵 𝑅33 = ∂𝛤𝜆33∂𝑥𝜆 ∂𝛤𝜆3𝜆∂𝑥3 + 𝛤𝜎33 𝛤𝜆𝜎𝜆 𝛤𝜎3𝜆 𝛤𝜆𝜎3 = ( ∂𝛤133∂𝑥1 + ∂𝛤233∂𝑥2 ) 0 + ( 𝛤133 𝛤𝜆1𝜆 + 𝛤233 𝛤𝜆2𝜆 ) ( 𝛤331 𝛤133 + 𝛤332 𝛤233 + 𝛤133 𝛤313 + 𝛤233 𝛤323 ) = ∂𝛤133∂𝑥1 + ∂𝛤233∂𝑥2 + 𝛤133 ( 𝛤𝜆1𝜆 2𝛤331 ) + 𝛤233 ( 𝛤𝜆2𝜆 -2𝛤332 ) = ( 1𝐵+𝐵𝑟𝐵2 ) sin2𝜃 +(cos2𝜃+sin2𝜃) + (𝑟𝐵sin2𝜃) { ( 𝐴2𝐴+ 𝐵2𝐵+ 2𝑟 ) 21𝑟 } + (sin𝜃cos𝜃) (cot𝜃2cot𝜃) = ( 1𝐵+𝐵𝑟𝐵2 ) sin2𝜃 cos2𝜃 +sin2𝜃 𝑟𝐵sin2𝜃 ( 𝐴2𝐴+ 𝐵2𝐵 ) +cos2𝜃 = ( 1𝐵 +𝐵𝑟𝐵2 +1 𝐴𝑟2𝐴𝐵 𝐵𝑟2𝐵2 ) sin2𝜃 = ( 1𝐵 +𝐵𝑟2𝐵2 +1 𝐴𝑟2𝐴𝐵 ) sin2𝜃 =𝑅22sin2𝜃

続いて非対角成分であるが、定義にしたがって計算した2.2節(42)〜(47)式とほとんど何も変わらなかったので省略する。思考の過程は多少変わったかもしれないがどうせ0ばかりだから違いが見えにくいのだ。

果たして、このやり方は本当に楽になっているのだろうか。対角成分を定義にしたがって計算した(38)〜(41)式と比べると、いずれの成分も2・3行目は簡単になったが4行目はかえって繁雑になったように思える。もともと代入する前に打ち消し合っていた項が、代入した後でないと打ち消し合わなくなってしまったのだ。ちょっと期待外れである。

このように、今の問題では(82)式の公式の利点はそれほど実感できなかったが、別の問題を解くときに役に立つかもしれない。(82)式の関係があるため、仮に 𝑔 が定数なら 𝛤𝜆𝜇𝜆 が0になるので、リッチテンソルを求める(37)式の第2項と第3項が0になるのだ。もしそのような座標系を採用する機会があれば利点が実感できるだろう。

3.3 未知関数の置き換え

2.2節ではリッチテンソルやアインシュタインテンソルを表す際に未知関数 𝐴(𝑟) や 𝐵(𝑟) をそのまま使った。この節では、 𝐴(𝑟) や 𝐵(𝑟) 自体ではなくその対数を取った関数を使うことで計算を省力化する手法を紹介する。

新しい未知関数を定義する

未知関数を次のように置く。 𝑔00 =𝐴(𝑟) =e𝑃(𝑟) 𝑔11 =𝐵(𝑟) =e𝑄(𝑟) これは「𝐴(𝑟) や 𝐵(𝑟) が指数関数であると仮定した」わけではない。書き方を変えれば、 𝑃(𝑟)=ln𝐴(𝑟) 𝑄(𝑟)=ln𝐵(𝑟) のようにして新たな関数 𝑃(𝑟) と 𝑄(𝑟) を定義しただけである。とは言え、 𝐴(𝑟) や 𝐵(𝑟) は何かのべき乗で表されるのだから正であるという仮定はしたことになる。これを使えば計量テンソルは (𝑔𝜇𝜈)= ( e𝑃000 0e𝑄00 00𝑟20 000𝑟2sin2𝜃 ) (89) のように表される。ここからは 𝑃 や 𝑄 の変数を表す (𝑟) は省略することにする。

方程式を作る

(89)式を元にして、2.2節と同様にクリストッフェル記号やリッチテンソルなどを計算していくわけであるが、もう式変形は書かない。手順は同じだし、見るだけでは何が楽になったかわかりにくいからだ。実際やってみれば、未知関数が分母に来ることがないので微分の計算が少し楽になったような気がするはずだ。この計算は読者への演習問題とする。それで結果だけ書くと、3.1節の最後でやった 𝑅𝜇𝜈 = 0 という方程式が 𝑅00 = e𝑃𝑄 ( 𝑃2 +𝑃24 𝑃𝑄4 +𝑃𝑟 ) =0 𝑅11 = 𝑃2 𝑃24 +𝑃𝑄4 +𝑄𝑟 =0 𝑅22 = e𝑄 ( 1 𝑃𝑟2 +𝑄𝑟2 ) +1 =0 𝑅33 = 𝑅22sin2𝜃=0 のようになる。(74)〜(77)式に比べて文字が少なくて見やすいし、 e−𝑃+𝑄𝑅₀₀ + 𝑅₁₁ を計算すれば簡単な式になりそうなことが見てすぐにわかる。そうすれば 𝑃′ = −𝑄′ となって、あとは今までと同様のパターンで解ける。このやり方はいろんな本に載っているので、どうしてもわからなかったらどれかの本を見て欲しい。

あるいは、頑張って 𝐺𝜇𝜈 まで計算すると、 𝐺𝜇𝜈 = 0 は 𝐺00 = e𝑄 (𝑄𝑟+1𝑟2) 1𝑟2 =0 𝐺11 = e𝑄 (𝑃𝑟+1𝑟2) 1𝑟2 =0 𝐺22= 𝐺33 = e𝑄 ( 𝑃2 +𝑃24 𝑃𝑄4 +𝑃2𝑟 𝑄2𝑟 ) =0 のようになる。こちらを解いても構わない。(53)〜(55)式と同様に上から順に計算していけば解ける。

このようにして、2.3節と同じ解が求まる。

気になること

この節のやり方を使って解を求めた場合、少し気になることがある。この節の最初の方で書いたように、 𝐴 と 𝐵 が正だと思って計算してきたが、求まった 𝐴 と 𝐵 は 𝑟 < 𝑟𝑠 の領域では負になってしまうのだ。その領域でもこの解が成り立つことをどうやって確信するのだろうか。取り得る選択肢は次のようなものがあるだろう。

  • ① 求まった 𝐴 と 𝐵 を使ってもう一度リッチテンソルを計算して、 𝑟 < 𝑟𝑠 の領域でも方程式が満たされることを確かめる。
  • ② e𝑃 と e𝑄 の代わりに −e𝑃 と −e𝑄 を使っても同様の計算で同じ形の解が導かれることを確かめる。
  • ③ 𝑃 や 𝑄 は複素関数であり 𝑟 < 𝑟𝑠 の領域では虚部が 𝜋 になるのだ、と強弁する。
  • ④  𝑟 < 𝑟𝑠 の領域は諦めて、 𝑟 > 𝑟𝑠 の領域だけでこの解を使う。

このように、計算や文字を書く手間が軽減される代わりに解の妥当性について考えるべきことが増えるのだ。この点をどう扱うのが主流なのか私は知らない。

以上で解き方の工夫の紹介は終わりである。

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