2.2 方程式を作る
2.1節で計量テンソルを未知関数で表したので、解くべき方程式である(3)式にそれを代入する。
原理的には、計量テンソルが決まればクリストッフェル記号が決まり、クリストッフェル記号が決まればリーマンテンソルが決まり、リーマンテンソルが決まればリッチテンソルが決まり、リッチテンソルが決まればスカラー曲率が決まる。そうして決まったリッチテンソルとスカラー曲率によってアインシュタインテンソルが決まる。その具体的な作業をやろうということである。
ただし実際にはリーマンテンソルを未知関数で表す作業は冗長であり、クリストッフェル記号から直接リッチテンソルに進むことになる。
それと、アインシュタインテンソルまで計算せずリッチテンソルを未知関数で表した段階で方程式を解く作業に進むような解法がある。それについては実際にリッチテンソルの表式まで出した後でまた説明する。
計量テンソル
計量テンソル 𝑔𝜇𝜈 は(12)式のとおりで、もう一度書くと
である。ここからは 𝐴 や 𝐵 の引数を表す (𝑟) は省略することにする。
ここで、 𝐴 や 𝐵 自体ではなくその対数を取った関数について解くことで計算を省力化する計算テクニックがある。それについては3.3節で述べる。今はその計算テクニックを用いず普通に 𝐴 や 𝐵 について解いていく。
この後の計算で添え字が上にある 𝑔𝜇𝜈 が必要になるので計算しておく。それは 𝑔𝜇𝜈 の逆行列であるが、今は対角行列であるから対角成分を逆数にするだけでよいので
である。
計量テンソルの微分
この後でクリストッフェル記号を求める際に 𝑔𝜇𝜈 の微分が必要になるので計算しておく。0でない成分は
である。ただしプライム ′ は座標 𝑟 による微分 を表す。これら以外の成分はすべて0である。
計量が対角行列のときに限って使えるクリストッフェル記号の公式
クリストッフェル記号の定義は
である。都合によりここではアインシュタインの縮約記法を用いずに書いた。
ここで慌てて(13)〜(18)式を(19)式に代入して具体的な表式を求めようとすると、計算の途中で何度も同じようなことを考えなければならず損である。その前に、計量が(12)式のような対角行列の場合は(19)式の定義式が大幅に簡略化されるので、先にその計算をやっておく。
一般には(19)式を展開すると12個の項からなっており計算が面倒である。しかし今は計量が対角行列だと言っているのだから、 ∑ 内の最初にある 𝑔𝜆𝜌 は 𝜆 ≠ 𝜌 なら0である。したがって 𝜌 は0から3まで動くうち 𝜆 と等しくなったときのことだけを考慮すればよい。また、∑ 内の括弧内の偏微分も計量テンソルの2つの添え字が異なるときは0なので無視できる。そこで、 𝛤 の3つの添え字のパターンに応じて次のように場合分けをする。以下①〜④の欄に限り、アインシュタインの縮約記法を使っておらず、同じ添え字が2回現れても ∑ がない限り和を取ってはならない。
① 3つの添え字がすべて等しい成分
② 上付添え字のみが異なり、2つの下付添え字が等しい成分
③ 一方の下付添え字のみが異なり、他方の下付添え字と上付添え字が等しい成分
④ 3つの添え字がすべて異なる成分
クリストッフェル記号
ではクリストッフェル記号の各成分の表式を求めよう。(13)〜(18)式を(20)〜(23)式の公式に代入する。
①のパターンは、
が0でないのは(15)式の 𝜆 = 1 の場合だけであるから、
であり、これ以外の場合は0である。②のパターンは、
が0でないのは(14)・(16)〜(18)式の場合であるから、
であり、これら以外の場合は0である。③のパターンは、
が0でないのは(14)・(16)〜(18)式の場合であるから、
であり、これら以外の場合は0である。④のパターンはすべて0である。以上でクリストッフェル記号のすべての成分が求まった。まとめてもう一度書いておくと、0でない成分は以下である。
クリストッフェル記号の微分
この後でリッチテンソルを求める際にクリストッフェル記号の微分が必要になるので計算しておく。(24)式をただ微分するだけなので、結果だけを書くと、0でない成分は以下である。
実は(27)・(32)式はこの後で使わないので計算する必要はなかったのだがついでに書いておいた。
リッチテンソル 𝑅𝜇𝜈
リーマンテンソル 𝑅𝜌𝜇𝜆𝜈 およびリッチテンソル 𝑅𝜇𝜈 の定義は
である(ただし符号を逆に定義する流儀もある)。そこで(35)式を(36)式に代入すれば
のようになる。いったんリーマンテンソルを計算するよりも、(37)式を使ってクリストッフェル記号とその微分から直接リッチテンソルを計算する方が楽なので、そのようにする。
ここで(37)式の中に 𝛤𝜆𝜇𝜆 とか 𝛤𝜆𝜎𝜆 というクリストッフェル記号の縮約が出てくる。これは定義に従って各成分を計算してから和をとってももちろんよいのであるが、それとは別の専用の公式を使う方法がある。その方法は3.2節で紹介する。今は専用の公式は使わないで定義に従った方法で計算する。劇的に手間が変わるわけではない。
ではリッチテンソルの各成分の表式を求めよう。(37)式を使って、(24)〜(34)式と見比べながら0でない成分を代入していくだけである。この下の式変形では、添え字に具体的な数字(0〜3)を代入する段階で、項の値が0でないものだけを残すようにしている。
まず対角成分は次のようになる。
いちばん最後は、 𝑅₃₃ を計算した結果を 𝑅₂₂ と見比べてみたら 𝑅₂₂ sin² 𝜃 に等しいことがわかった、という意味である。
続いて非対角成分は、
のようにすべて0である。(45)式を除いて途中の計算式に出てくる項もすべて0である。
以上でリッチテンソル 𝑅𝜇𝜈 の表式が求まった。
このページの最初の方で述べたように、この先スカラー曲率(リッチスカラー) 𝑅 やアインシュタインテンソル 𝐺𝜇𝜈 の表式を求める作業を回避してここから直ちに方程式を解く段階に進む方法がある。ただしその方法では解く作業が少しだけ面倒になる。それについては3.1節で述べる。今は普通に 𝑅 や 𝐺𝜇𝜈 の表式を求めていく。
リッチテンソル 𝑅𝜇𝜈
この後の計算で使うため、1個目の添え字を上にあげた 𝑅𝜇𝜈 = 𝑔𝜇𝜌𝑅𝜌𝜈 を計算しておく。(13)式と(38)〜(47)式を代入すればよい。
まず対角成分は次のようになる。
続いて非対角成分であるが、計量テンソル 𝑔𝜇𝜈 もリッチテンソル 𝑅𝜇𝜈 も非対角成分はすべて0なので、 𝜇 ≠ 𝜈 の場合は 𝜌 が何であろうと 𝑔𝜇𝜌 と 𝑅𝜌𝜈 のどちらか一方は必ず0であるから 𝑅𝜇𝜈 = 𝑔𝜇𝜌𝑅𝜌𝜈 も非対角成分はすべて0である。
以上でリッチテンソル 𝑅𝜇𝜈 の表式が求まった。
スカラー曲率
スカラー曲率(リッチスカラー) 𝑅 の定義は
であるから、(48)〜(51)式を代入して計算すると次のようになる。
アインシュタインテンソル
アインシュタインテンソル 𝐺𝜇𝜈 の定義は
である。 𝛿𝜇𝜈 はクロネッカーのデルタである。では各成分の表式を求めよう。
まず対角成分は次のようになる。
続いて非対角成分であるが、リッチテンソル 𝑅𝜇𝜈 もクロネッカーのデルタ 𝛿𝜇𝜈 も非対角成分はすべて0なので、アインシュタインテンソル 𝐺𝜇𝜈 も非対角成分はすべて0である。
方程式の完成
ここまででアインシュタインテンソル 𝐺𝜇𝜈 を未知関数 𝐴 と 𝐵 で表すことができたので、これらを(3)式に代入すれば方程式が完成する。対角成分は次のようになる。
そして非対角成分は 0 = 0 となり何もしなくても最初から成り立っている。したがって(53)〜(55)式から成る連立方程式を解けばよいことになる。