シュバルツシルト解(外部解)の導出(3)

2.3 方程式を解く

2.2節の最後でできあがった(53)〜(55)式を解く。方程式をもう一度書いておくと、 第(0, 0)成分: 𝐵𝐵2𝑟 +1𝐵𝑟2 1𝑟2 =0 (53) 第(1, 1)成分: 𝐴𝐴𝐵𝑟 +1𝐵𝑟2 1𝑟2 =0 (54) 第(2, 2), (3, 3)成分: 𝐴2𝐴𝐵 𝐴𝐵4𝐴𝐵2 +𝐴2𝐴𝐵𝑟 𝐴24𝐴2𝐵 𝐵2𝐵2𝑟 =0 (55) である。未知関数が2個しかないのに式が3個もあって解が存在するかどうか心配になるかもしれないが、落ち着いて上から順番に見ていこう。

第(0, 0)成分

(53)式には 𝐴 が含まれておらず 𝐵 だけの式なので簡単である。 𝐵𝐵2𝑟 +1𝐵𝑟2 1𝑟2 = 0 (53)式 1𝑟2 ( 𝐵𝑟𝐵21𝐵+1 ) = 0 𝐵𝑟𝐵21𝐵+1 = 0 𝐵𝑟𝐵21𝐵 = 1 (𝑟𝐵) = 1 𝑟𝐵 = 𝑟+𝑟𝑠 𝑟𝑠は積分定数) 1𝐵 = 1𝑟𝑠𝑟 (56) 𝐵 = 11𝑟𝑠𝑟 (57) となって 𝐵 が決まる。4行目から5行目への変形はしばらく見ていれば思いつくだろう。もし自力で思いつかなくても、4行目の左辺と同じものが(29)式の右辺にあることに気づけば積分できる。もしそれにも気づけなくても、 𝐵′ について解けば変数分離形になっていることがわかるので解ける。

第(1, 1)成分

すでに 𝐵 は決まったので、それを(54)式に代入すれば 𝐴 だけの式になる。直ちに代入してももちろん解けるが、その前に(54)式から(53)式を丸ごと引いてみると、 𝐴𝐴𝐵𝑟 +𝐵𝐵2𝑟 = 0 (54)式から(53)式を引いた。 𝐴𝐵+𝐴𝐵 𝐴𝐵2𝑟 = 0 𝐴𝐵+𝐴𝐵=0 (𝐴𝐵)=0 𝐴𝐵=𝑏(𝑏は積分定数) 𝐴1𝑟𝑠𝑟 = 𝑏 (57)式を代入した。 𝐴 = 𝑏(1𝑟𝑠𝑟) (58) となって 𝐴 も決まる。2.1節の最後に書いたように 𝐴 = 0 は解ではないので、 𝑏 ≠ 0 である。

第(2, 2), (3, 3)成分

(53)式(54)式だけから 𝐴 と 𝐵 が決まってしまったが、これらが(55)式をも満たしているかを確認しなければならない。そのため先に 𝐴 や 𝐵 の微分などを求めておこう。 𝐴 については(58)式を微分すると、 𝐴 = 𝑏𝑟𝑠𝑟2 (59) 𝐴 = 2𝑏𝑟𝑠𝑟3 (60) のようになる。 𝐵 については 1𝐵 の微分を計算しておくとよい。(56)式を微分すると、 (1𝐵) = (1𝑟𝑠𝑟) 𝐵𝐵2 = 𝑟𝑠𝑟2 (61) のようになる。これらを使うと (55)式の左辺 = 𝐴2𝐴𝐵 𝐴𝐵4𝐴𝐵2 +𝐴2𝐴𝐵𝑟 𝐴24𝐴2𝐵 𝐵2𝐵2𝑟 = 𝐴2𝐴𝐵 +𝐴2𝐴𝐵𝑟 𝐴24𝐴2𝐵 𝐴𝐵4𝐴𝐵2 𝐵2𝐵2𝑟 ←項の順番を変えただけ。 = 12𝐴1𝐵 ( 𝐴 +𝐴𝑟 𝐴22𝐴 ) 𝐵𝐵2 (𝐴4𝐴+12𝑟) = 12𝑏(1𝑟𝑠𝑟) (1𝑟𝑠𝑟) { 2𝑏𝑟𝑠𝑟3 + (𝑏𝑟𝑠𝑟2)𝑟 (𝑏𝑟𝑠𝑟2)2 2𝑏(1𝑟𝑠𝑟) } +𝑟𝑠𝑟2 { (𝑏𝑟𝑠𝑟2) 4𝑏(1𝑟𝑠𝑟) +12𝑟 } (56) (58) (61)式を代入した。 = 12𝑏 { 2𝑏𝑟𝑠𝑟3 +𝑏𝑟𝑠𝑟3 (𝑏2𝑟𝑠2𝑟4) 2𝑏(1𝑟𝑠𝑟) } +𝑟𝑠𝑟2 { 𝑟𝑠 4𝑟2(1𝑟𝑠𝑟) +12𝑟 } = 12𝑏 { 𝑏𝑟𝑠𝑟3 𝑏𝑟𝑠2 2𝑟4(1𝑟𝑠𝑟) } +𝑟𝑠𝑟2 { 𝑟𝑠 4𝑟2(1𝑟𝑠𝑟) +12𝑟 } = 𝑟𝑠2𝑟3 𝑟𝑠2 4𝑟4(1𝑟𝑠𝑟) + 𝑟𝑠2 4𝑟4(1𝑟𝑠𝑟) +𝑟𝑠2𝑟3 =0 となって0になるので、(55)式も満たされている。したがって(58)(57)式は連立微分方程式(53)〜(55)式の一般解であることがわかった。これらを(12)式に代入すると計量テンソルは (𝑔𝜇𝜈)= ( 𝑏(1𝑟𝑠𝑟) 0 0 0 0 11𝑟𝑠𝑟 0 0 00𝑟20 000𝑟2sin2𝜃 ) (62) となる。

積分定数 𝑏

積分定数 𝑏 は0でなければ何でもよいのだろうか。

4次元時空(時間1次元×空間3次元)では、計量テンソルを行列とみなしたときの行列式は負になるのだった。そこで(62)式の行列式を計算してみると、対角行列であるから対角成分の積を計算するだけでよくて、それは −𝑏𝑟⁴ sin² 𝜃 である。これが負だというのだから 𝑏 は正でなければならない。

もしもこれに反して 𝑏 が負だったらどうなるか考えてみよう。その場合、 𝑟 > 𝑟𝑠 の領域では 𝑔00𝑔11 も正になる。これでは時間が存在せず4つの次元がすべて空間次元であるような4次元空間になってしまう。また、 𝑟 < 𝑟𝑠 の領域では 𝑔00𝑔11 も負になるという、よくわからない状況である。時間2次元×空間2次元になるのだろうか。このような解は通常の時空に当てはめることができない。

したがって、数学的には 𝑏 は正でも負でもよいのかもしれないが、現実の4次元時空に適用するときは 𝑏 > 0 である。

ところで 𝑔00 は 𝑥⁰ 軸(𝑤 軸)の目盛り間隔の2乗に比例しているのである。それなら目盛り間隔を変更して 1𝑏 倍にして目盛りを振り直してやれば、𝑔001𝑏 倍になって、 𝑏 を消せるのではないだろうか。 𝑏 は正だと決まったのだからこの操作はいつでも可能である。座標変換でそのようなことができるなら、最初からその変換後の座標を使ったことにして 𝑏 = 1 としてよいはずだ。というわけでシュバルツシルト解の計量テンソルの一般解は (𝑔𝜇𝜈)= ( (1𝑟𝑠𝑟) 0 0 0 0 11𝑟𝑠𝑟 0 0 00𝑟20 000𝑟2sin2𝜃 ) と書くことができる。

積分定数 𝑟𝑠

もう一つの積分定数 𝑟𝑠 は、数学的には正で0でも負でも構わない。計算を省略して結果だけ言うと、物理的には、 𝑟𝑠 が0なら無重力(平坦なミンコフスキー時空)であり、正なら原点を中心とした引力が存在し、負なら原点を中心とした斥力が存在する。この引力や斥力は原点に近いところほど大きくなる。現実の宇宙ではこの引力に相当すると思われる重力場はそこらじゅうに存在するが、この斥力に相当するような重力場はまったく見つかっていない。そのため普通は 𝑟𝑠 ≧ 0 と考えることになっている。

𝑟𝑠 の値は物理的には何に対応しているのだろうか。それを決める方法は主に2つある。最も正統な方法は、原点付近に存在する球対称の物体の内部で成り立つ内部解を別途求め、天体の表面で内部解と外部解が連続になるように条件を定めることである。もう一つの簡易的な方法は、遠方でニュートン力学が成り立っていることを使う方法である。詳細の説明は他の教科書等に譲るが、後者の簡易的な方法を用いて、 𝑟𝑠=2𝐺𝑀𝑐2 とすることができる。ただし 𝐺 は万有引力定数、 𝑀 は原点付近に存在する球対称の物体の(今のところ)ニュートン力学的な質量、 𝑐 は光速である。 𝑀 が相対論的にどう定義されるかは別の機会に説明するが、この式でもって 𝑟𝑠 から 𝑀 が定義されると考えてもよい。

この 𝑟𝑠 のことを「シュバルツシルト半径」と呼ぶ。

以上でシュバルツシルト解(外部解)の導出は終わりである。方程式を作る作業が面倒であった割に、解く作業はあっさりしたものであった。

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