2.2節の最後でできあがった(53)〜(55)式を解く。方程式をもう一度書いておくと、 である。未知関数が2個しかないのに式が3個もあって解が存在するかどうか心配になるかもしれないが、落ち着いて上から順番に見ていこう。
(53)式には 𝐴 が含まれておらず 𝐵 だけの式なので簡単である。 となって 𝐵 が決まる。4行目から5行目への変形はしばらく見ていれば思いつくだろう。もし自力で思いつかなくても、4行目の左辺と同じものが(29)式の右辺にあることに気づけば積分できる。もしそれにも気づけなくても、 𝐵′ について解けば変数分離形になっていることがわかるので解ける。
すでに 𝐵 は決まったので、それを(54)式に代入すれば 𝐴 だけの式になる。直ちに代入してももちろん解けるが、その前に(54)式から(53)式を丸ごと引いてみると、 となって 𝐴 も決まる。2.1節の最後に書いたように 𝐴 = 0 は解ではないので、 𝑏 ≠ 0 である。
(53)式と(54)式だけから 𝐴 と 𝐵 が決まってしまったが、これらが(55)式をも満たしているかを確認しなければならない。そのため先に 𝐴 や 𝐵 の微分などを求めておこう。 𝐴 については(58)式を微分すると、 のようになる。 𝐵 については の微分を計算しておくとよい。(56)式を微分すると、 のようになる。これらを使うと となって0になるので、(55)式も満たされている。したがって(58)・(57)式は連立微分方程式(53)〜(55)式の一般解であることがわかった。これらを(12)式に代入すると計量テンソルは となる。
積分定数 𝑏 は0でなければ何でもよいのだろうか。
4次元時空(時間1次元+空間3次元)では、計量テンソルを行列とみなしたときの行列式は負になるのだった。そこで(62)式の行列式を計算してみると、対角行列であるから対角成分の積を計算するだけでよくて、それは −𝑏𝑟⁴ sin² 𝜃 である。これが負だというのだから 𝑏 は正でなければならない。
もしもこれに反して 𝑏 が負だったらどうなるか考えてみよう。その場合、 𝑟 > 𝑟𝑠 の領域では 𝑔₀₀ も 𝑔₁₁ も正になる。これでは時間が存在せず4つの次元がすべて空間次元であるような4次元空間になってしまう。また、 𝑟 < 𝑟𝑠 の領域では 𝑔₀₀ も 𝑔₁₁ も負になるという、よくわからない状況である。時間2次元+空間2次元になるのだろうか。このような解は通常の時空に当てはめることができない。
したがって、数学的には 𝑏 は正でも負でもよいのかもしれないが、現実の4次元時空に適用するときは 𝑏 > 0 である。
ところで 𝑔₀₀ は 𝑥⁰ 軸(𝑤 軸)の目盛り間隔の2乗に比例しているのである。それなら目盛り間隔を変更して 倍にして目盛りを振り直してやれば、 𝑔₀₀ が 倍になって、 𝑏 を消せるのではないだろうか。 𝑏 は正だと決まったのだからこの操作はいつでも可能である。座標変換でそのようなことができるなら、最初からその変換後の座標を使ったことにして 𝑏 = 1 としてよいはずだ。というわけでシュバルツシルト解の計量テンソルの一般解は と書くことができる。
もう一つの積分定数 𝑟𝑠 は、数学的には正で0でも負でも構わない。計算を省略して結果だけ言うと、物理的には、 𝑟𝑠 が0なら無重力(平坦なミンコフスキー時空)であり、正なら原点を中心とした引力が存在し、負なら原点を中心とした斥力が存在する。この引力や斥力は原点に近いところほど大きくなる。現実の宇宙ではこの引力に相当すると思われる重力場はそこらじゅうに存在するが、この斥力に相当するような重力場はまったく見つかっていない。そのため普通は 𝑟𝑠 ≧ 0 と考えることになっている。
𝑟𝑠 の値が何に基づいて決まるかを説明する方法は主に2つある。最も正統な方法は、原点付近に存在する球対称の物体の内部で成り立つ内部解を別途求め、天体の表面で内部解と外部解が連続になるように条件を定めることである(その計算は「シュバルツシルト解(内部解)の導出」(密度が一様の場合)、「球対称で定常な天体が作る重力場」(一般の場合)の各記事で行う)。もう一つの簡易的な方法は、遠方でニュートン力学が成り立っていることを使う方法である。詳細の説明は他の教科書等に譲るが、後者の簡易的な方法を用いて、 とすることができる。ただし 𝐺 は万有引力定数、 𝑀 は原点付近に存在する球対称の物体の(今のところ)ニュートン力学的な質量、 𝑐 は光速である。この2つの方法で決めた値は一致する。このことから 𝑀 が相対論的にどんな量を表しているといえるかは、前述した2つの記事でごく簡単に触れている。
この 𝑟𝑠 のことを「シュバルツシルト半径」と呼ぶ。
以上でシュバルツシルト解(外部解)の導出は終わりである。方程式を作る作業が面倒であった割に、解く作業はあっさりしたものであった。