球対称で定常な天体が作る重力場(1)

重力場の方程式の自明でない厳密解の中で単純なものとして、別の記事で球対称・定常の解であるシュバルツシルト解(外部解内部解)を導出した。それは物理的には、孤立した球対称・定常・一様密度・完全流体の天体の内部で成り立つ解(内部解)と、その外側の真空で成り立つ解(外部解)である。この記事ではそれを拡張して、天体の密度が一様でなくても適用できるような、球対称で定常な計量の表式を求めたい。天体の外部は密度をゼロとすればよいので、内部と外部を別々にしないでまとめて扱う。

この記事では「シュバルツシルト解(内部解)の導出」の記事と重複した記述が何度も出てくる。その理由は、いちいちシュバルツシルト解(内部解)の記事を参照すると何度も行ったり来たりしなければならず面倒だし、当該記事を読んでいない人でもこの記事を支障なく読めるようにするためである。だから当該記事をすでに読んだ人はくどいと感じるかもしれないが我慢してほしい。

目次

第1章 球対称で定常な時空の計量を求める方法

この解を求める流れは、シュバルツシルト解(内部解)の場合とほとんど同じである。ただ天体の密度が一様でない分だけ抽象的になるだけだ。

1.1 条件を式で表す

重力場の方程式

重力場の方程式は一般に 𝐺𝜇𝜈+𝛬𝑔𝜇𝜈 =𝜅𝑇𝜇𝜈 (1) のような形で書かれる(ただしどれかの項の符号が逆になる流儀もある)。 𝐺𝜇𝜈 はアインシュタインテンソル、 𝑔𝜇𝜈 は計量テンソル、 𝑇𝜇𝜈 はエネルギー運動量テンソルである。 𝛬 と 𝜅 は定数である。

シュバルツシルト解(外部解)のときは真空であるから恒等的に 𝑇𝜇𝜈 = 0 と置いたのだった。今回は真空とは限らないので 𝑇𝜇𝜈 は恒等的にゼロではない。宇宙定数 𝛬 はシュバルツシルト解のときと同様にゼロとする。定数 𝜅 の中身は 𝜅=8𝜋𝐺𝑐4 であり、 𝐺 は万有引力定数、 𝑐 は光速である。したがって(1)式 𝐺𝜇𝜈= 8𝜋𝐺𝑐4𝑇𝜇𝜈 (2) という形になる。ただし、シュバルツシルト解のときと同様に、ここでは実際には反変テンソルではなく片方の添え字をおろした混合テンソルによる方程式 𝐺𝜇𝜈= 8𝜋𝐺𝑐4 𝑇𝜇𝜈 (3) を解くことにする。今回はシュバルツシルト解(内部解)のときと違って定数 𝜅 の中身を最初から代入したが、これはたまたまそうしただけの気分の問題である。いつでも好きなタイミングで代入すればよい。

座標系

座標系の形はシュバルツシルト解のときと同様に次のように仮定する。

𝑥 = 𝑤
時間座標(未来方向が正)
𝑥¹ = 𝑟
動径座標
𝑥² = 𝜃
角度座標(緯度:北極が0)
𝑥³ = 𝜑
角度座標(経度)

𝑟 = 0 は天体の中心であり、 𝑟 = 𝑟𝑐 を天体の表面とする。今から求めたいのは 0 ≦ 𝑟 の全域で成り立つ解である。ただし 𝜃 = 0, 𝜋 ではすべての 𝜑 が(さらに 𝑟 = 0 ではすべての 𝜃 と 𝜑 が)1点に集まり座標特異点となり得るので、そのせいで何かの量のいずれかの成分がその場所で形式的に発散することは構わないこととする。

計量テンソル

計量テンソルの形もシュバルツシルト解のときと同様に、 (𝑔𝜇𝜈)= ( 𝐴(𝑟)000 0𝐵(𝑟)00 00𝑟20 000𝑟2sin2𝜃 ) (4) と仮定する。 𝐴(𝑟) および 𝐵(𝑟) は 𝑟 のみに依存する未知関数である。したがって線素の式は d𝑠2 = 𝐴(𝑟)d𝑤2 +𝐵(𝑟)d𝑟2 +𝑟2 (d𝜃2+sin2𝜃d𝜑2) (5) となる。

物質場

天体を構成する物質は完全流体だと仮定し、その質量密度を 𝑟 の関数として 𝜌(𝑟) と置き、圧力を 𝑟 の関数として 𝑝(𝑟) と置く。この 𝜌(𝑟) と 𝑝(𝑟) は流体要素が瞬間的に静止する局所慣性系で測った値である。だからスカラーであり、先ほど仮定した座標系の目盛り間隔には依存しない。また、これらは負にはならないものとする。宇宙論では圧力が負であるようなダークエネルギーが登場することがあるが、今は圧力が正となる普通の物質だけを考える。

天体の外部では密度と圧力はゼロであるから、 𝑟 > 𝑟𝑐 のとき 𝜌(𝑟) = 0 , 𝑝(𝑟) = 0 である。

境界条件

今回の解のことしか考えないなら特にないが、あとでシュバルツシルト解と比較して天体の外部で計量がシュバルツシルト解(外部解)と一致するような条件を追加する。

1.2 方程式を作る

解くべき方程式である(3)式の具体的な表式を求めよう。ここからは別途定める場合を除いて 𝐴 や 𝐵 や 𝜌 や 𝑝 の引数を表す (𝑟) は省略することにする。

アインシュタインテンソル 𝐺𝜇𝜈

(4)式の計量テンソルはシュバルツシルト解のときとまったく同じであるから、それを元にしてアインシュタインテンソルの表式を求めるまでの手順も同じである。つまり、まず添え字が上にある 𝑔𝜇𝜈 は (𝑔𝜇𝜈)= ( 1𝐴000 01𝐵00 001𝑟20 0 0 0 1𝑟2sin2𝜃 ) となり、次にクリストッフェル記号の0でない成分は 𝛤100= 𝐴2𝐵 , 𝛤010= 𝛤001= 𝐴2𝐴 , 𝛤111= 𝐵2𝐵 , 𝛤212= 𝛤221= 1𝑟 , 𝛤313= 𝛤331= 1𝑟 , 𝛤122= 𝑟𝐵 , 𝛤323= 𝛤332= cot𝜃 , 𝛤133= 𝑟𝐵sin2𝜃 , 𝛤233 = sin𝜃cos𝜃 (5-2) となる。このようにしてアインシュタインテンソルの表式を求めるまでの計算過程はシュバルツシルト(外部解)の記事の2.2節を見てもらうこととしてここでは結果だけを書くと、対角成分は 𝐺00 = 𝐵𝐵2𝑟 +1𝐵𝑟2 1𝑟2 (6) 𝐺11 = 𝐴𝐴𝐵𝑟 +1𝐵𝑟2 1𝑟2 (7) 𝐺22= 𝐺33 = 𝐴2𝐴𝐵 𝐴𝐵4𝐴𝐵2 +𝐴2𝐴𝐵𝑟 𝐴24𝐴2𝐵 𝐵2𝐵2𝑟 (8) であり、非対角成分はすべて0である。ただし 𝑟 以外の文字についているプライム ′ は座標 𝑟 による微分 dd𝑟 を表す。

エネルギー運動量テンソル 𝑇𝜇𝜈

完全流体であるからエネルギー運動量テンソルは 𝑇𝜇𝜈= (𝜌+𝑝𝑐2) 𝑢𝜇𝑢𝜈 +𝑝𝑔𝜇𝜈 のようになる(ただしどれかの項の符号が逆になる流儀もある)。ここで 𝑢𝜇 は流体要素の4元速度である。しかし今は混合テンソルが欲しいので、片方の添え字をおろして 𝑇𝜇𝜈= (𝜌+𝑝𝑐2) 𝑢𝜇𝑢𝜈 +𝑝𝛿𝜇𝜈 (9) のようにしておく。 𝛿𝜇𝜈 はクロネッカーのデルタである。

𝑢𝜇 については、空間成分 (𝜇 = 1, 2, 3) はすべて0である。その理由は、もし 𝑢¹ が0でなかったら天体が膨らむか縮むかして定常でなくなってしまうし、 𝑢² または 𝑢³ が0でなかったら円周方向に特定の方向が存在することになって球対称でなくなってしまい、「球対称・定常」という仮定に反するからだ。すると、今は計量テンソルの非対角成分は0であるから、 𝑢𝜈 = 𝑔𝜆𝜈𝑢𝜆 も空間成分はすべて0になる。そして4元速度はいつでも 𝑔𝜇𝜈𝑢𝜇𝑢𝜈 =𝑐2 を満たしているから、その結果 𝑢𝜇𝑢𝜇 = 𝑐2 𝑢0𝑢0+ 𝑢1𝑢1+ 𝑢2𝑢2+ 𝑢3𝑢3 = 𝑐2 𝑢0𝑢0+0+0+0 = 𝑐2 𝑢0𝑢0 = 𝑐2 となる。したがって(9)式よりエネルギー運動量テンソルの第(0, 0)成分は 𝑇00 = (𝜌+𝑝𝑐2) 𝑢0𝑢0 +𝑝𝛿00 = (𝜌+𝑝𝑐2) (𝑐2) +𝑝 =𝑐2𝜌𝑝+𝑝 =𝑐2𝜌 である。その他の対角成分は(9)式の右辺の第1項が0になるから 𝑇𝜇𝜈=𝑝 (𝜇 = 𝜈 ≠ 0) であり、非対角成分は(9)式の右辺の第1項も第2項も0になるからすべて0である。まとめて書けば (𝑇𝜇𝜈)= ( 𝑐2𝜌000 0𝑝00 00𝑝0 000𝑝 ) (10) である。

方程式の完成

ここまででアインシュタインテンソル 𝐺𝜇𝜈 とエネルギー運動量テンソル 𝑇𝜇𝜈 を未知関数で表すことができたので、これらを(3)式に代入すれば方程式が完成する。対角成分は次のようになる。 第(0, 0)成分: 𝐵𝐵2𝑟 +1𝐵𝑟2 1𝑟2 =8𝜋𝐺𝜌𝑐2 (11) 第(1, 1)成分: 𝐴𝐴𝐵𝑟 +1𝐵𝑟2 1𝑟2 =8𝜋𝐺𝑝𝑐4 (12) 第(2, 2), (3, 3)成分: 𝐴2𝐴𝐵 𝐴𝐵4𝐴𝐵2 +𝐴2𝐴𝐵𝑟 𝐴24𝐴2𝐵 𝐵2𝐵2𝑟 =8𝜋𝐺𝑝𝑐4 (13) そして非対角成分は 0 = 0 となり何もしなくても最初から成り立っている。したがって(11)〜(13)式から成る連立方程式を解けばよいことになる。

⛭ 数式の表示設定 (S)