1.3 方程式を解く
1.2節の最後でできあがった(11)〜(13)式を解く。方程式をもう一度書いておくと、
である。文字がいろいろあってややこしいが、 𝜋 と 𝐺 と 𝑐 は定数、 𝑟 は座標、 𝐴 と 𝐵 と 𝜌 と 𝑝 は未知関数(𝑟 の関数)である。未知関数が4つあるのに方程式が3つしかないので、これだけでは関数の形が完全には定まらない。実際はこの3つの他に、天体を構成する完全流体の性質(密度と圧力の関係)を表す何らかの状態方程式
が存在し、それによってすべての未知関数が定まる。もっと細かいことを言えば現実には天体の温度も大きくかかわってくるしいろいろ複雑であるが、いずれにしても(11)〜(13)式の他に物質に応じて密度と圧力の関係に制約が存在するということである。では上から順番に見ていこう。
第(0, 0)成分
(11)式には 𝐴 や 𝑝 が含まれておらず 𝐵 と 𝜌 だけの式なので単純である。
となる。(15)式の右辺の第2項は不定積分であるから積分定数の役割も含まれている。どうせ 𝜌 の具体的な形は最後まで決まらないので、(15)式の右辺の変形は本質的にはこれが限界である。ただしこのままでは今後の計算の見た目が繁雑になるので形式的な書き換えをしておく。そのために新たな関数
を定義する。ここでは関数の引数を明確にするために括弧内に明記しておいた。 𝑟′ は積分変数を 𝑟 と区別するためにプライム ′ をつけたものであって微分ではない。あとで必要になる量をここで事前に計算しておくと、定義から明らかに
であり、また
である。さて、 𝑚 を使うと(15)式は
となる。ここまで左辺の式変形はシュバルツシルト解のときとまったく同じであり、右辺だけが異なる。
ここで積分定数 𝑟𝑎 は実は0である。それは次のようにしてわかる。まず 𝑟 → 0 のときに 𝐵 がどうなるかを考えると、仮に 𝑟𝑎 = 0 ならば(20)・(19)式より
であり、 𝑟𝑎 ≠ 0 ならば(21)・(17)式より
である。ここで 𝑤 = 一定 , 𝑟 = 𝜀 ,
の円を考えると、(5)式よりこの円の1周の長さは 2𝜋𝜀 になる。時空のどの世界点の近傍にも局所慣性系が存在するから、 𝜀 が十分小さいときは、この円は 𝑟 = 0 の近傍の局所慣性系(平坦な時空)で考えてよいので半径は円周の
倍すなわち 𝜀 になる。それは
になっているということだから、 𝑟𝑎 = 0 であることがわかる。したがってそれを(20)式に代入すると、
のように書くことができる。見た目は簡潔になったが、 𝑚 が 𝑟 の関数((16)式)であることを忘れてはならない。
第(1, 1)成分
(12)式より、
となる。シュバルツシルト解(内部解)のときはここまできた段階で、第(1, 1)成分の式変形は後回しにして第(2, 2), (3, 3)成分の式に進んで 𝑝 を決めてから戻ってきたのだった。しかし今回はどうせ 𝑚 と 𝑝 の具体的な形は最後まで決まらないので、(23)式を後回しにする理由はない。このまま式変形を続ける。(23)式を積分すると、
のようになる。 𝐴 が正であると勝手に決めつけているが、これはもし 𝐴 が負だったらその場所で 𝑔₁₁ < 0 < 𝑔₀₀ だということになっていろいろおかしくなるからである。(24)式の右辺の波括弧内は不定積分であるから積分定数の役割も含まれているので、 𝐴 には正の定数倍の任意性があることになる。 𝑚 が 𝑟 の関数((16)式)であることを忘れてはならない。
第(2, 2), (3, 3)成分
(23)式と(22)式を使って(13)式から 𝐴 と 𝐵 を消去し、 𝜌 (と 𝑚)と 𝑝 だけの式にすることを考える。そのために必要となる 𝐴 や 𝐵 に関する微分などを先に求めておこう。 𝐴 については(23)式を変形して微分すると、
のようになる。 𝐵 については(22)式より
であり、(27)式を微分すると、
のようになる。
さて、(13)式は
のように変形できる。(30)式に(25)・(26)・(28)・(29)式を代入すればよいのであるが、一気にやると式がとても長くなって大変であるから、4つの項ごとに別々に計算しよう。その際、 𝑝 の次数に応じて項を整理しておくとよい。
これらを(30)式に代入すると、
である。これを(13)式に代入すれば、
のような関係式が得られる。(31)式を「トールマン・オッペンハイマー・ボルコフ方程式」(Tolman–Oppenheimer–Volkoff equation; TOV方程式)と呼ぶ。「トールマン」は「トルマン」と書かれることもあるが、「トルーマン」とは普通書かない。もしそのように書いてあったらおそらく間違いである。オッペンハイマーと並んでいるからといってトルーマン(Truman)と勘違いしてはいけない。
(31)式を導く方法は他にもあって、それは1.5節で説明する。
一般解
(24)・(22)・(31)・(16)式をまとめると、解は
である。状態方程式(14)式と解(33)・(34)式を連立させれば密度 𝜌 (とその積分 𝑚 )と圧力 𝑝 が定まり、それらを解(32)式に代入すれば計量が定まるというわけである。
𝑔₀₀ の波括弧内は不定積分であるから積分定数の役割も含まれているので、 𝑔₀₀ には正の定数倍の任意性があることになる。 𝑚 は(32)・(33)式を簡潔に書くために勝手に導入した関数であって元の方程式には存在しないが、そのようなものが解に含まれていることが気に入らなければ(34)式を(32)・(33)式に代入して 𝑚 を消去すればよい。
シュバルツシルト解と整合的な解が欲しければ、天体の外部で計量がシュバルツシルト解(外部解)と一致するように任意定数を選べばよい。その計算は第2章で行う。