第1章で求めた定常・球対称計量の一般解は である。あからさまに積分定数は書かれていないが、 𝑔₀₀ の中に不定積分があるのでそこに積分定数の役割も含まれている。一方、シュバルツシルト解(外部解)は、「シュバルツシルト解(外部解)の導出」の記事の2.3節の最後の方で求めたように、 であった(𝑟𝑠 は積分定数)。天体の外部 𝑟 > 𝑟𝑐 で両方の計量が一致する条件を考えてみる。まず(32)式の 𝑔₀₀ (= −𝐴) はもともと を積分して(24)式から出てきたものであるが、不定積分だと任意定数が扱いにくい。そこで改めて(23)式に対して 𝑟 から ∞ までの定積分を計算して のようにしておく。ここからは定積分の関数の引数を間違えないように括弧内に明記しておくことにする。ここで、天体の外部でシュバルツシルト解(外部解)と一致するためには 𝐴(∞) = 1 でなければならないからそれを代入すると、 となる。 𝐴 を正とした理由は(24)式のときと同様である。さて、天体の外部では 𝑝(𝑟) = 0, 𝑚(𝑟) = 𝑚(𝑟𝑐) であるから 𝑟 > 𝑟𝑐 のときは のような簡単な式になる。これが(46)式のシュバルツシルト解(外部解)の 𝑔₀₀ と一致するのだから、 である。次に(32)式の 𝑔₁₁ (= 𝐵) は、天体の外部 𝑟 > 𝑟𝑐 では 𝑚(𝑟) = 𝑚(𝑟𝑐) であるから(32)式と(46)式を見比べるとそれらが一致する条件はやはり(48)式であることがわかる。以上により、(47)式を使うことで(32)式の 𝑔₀₀ の定数倍の任意性をなくして のようにして、(46)式の 𝑟𝑠 を(48)式のように定めれば、天体の外部でシュバルツシルト解(外部解)と整合的となる定常・球対称計量の解が得られる。(32)式の 𝑔₁₁ と(33)・(34)式はそのままでよい。
この節の内容は「解の導出」とは関係ないが、解の形からすぐにわかる重要なことなのでついでにここに書いておく。
(48)式の 𝑟𝑠 はもともとはシュバルツシルト解(外部解)を導出したときに出てきた積分定数で、「シュバルツシルト半径」である。それは遠方でニュートン力学が成り立っていることを使うと と書けるのだった。 𝑀 はニュートン力学で天体の「質量」と呼んでいたものであるが、相対論的にどう定義されるかを考えると、(49)式と(48)式を等置すれば であることがわかる。「厚さ d𝑟 の薄皮の質量を中心 𝑟 = 0 から表面 𝑟 = 𝑟𝑐 まで積分したら球の質量になるのは当たり前ではないか。」と思った人がいるかもしれないがそうではない。平坦なユークリッド空間なら 4𝜋𝑟²d𝑟 は 𝑟 〜 𝑟 + d𝑟 の薄皮の体積だが、今考えている解のような曲がった時空では 4𝜋𝑟²d𝑟 という量はそれとは違う何か別のものだ。
(32)式の計量であれば薄皮の(片面の)面積はユークリッド空間と同じく 4𝜋𝑟² であるが、薄皮の厚さである 𝑟 〜 𝑟 + d𝑟 の本当の距離は であるから、この天体を構成する流体要素が瞬間的に静止する局所慣性系で測った質量を全部足し合わせた合計の質量 𝑀𝑃 は である。 だから 𝑀𝑃 は 𝑀 より大きい。
では 𝑀 の意味は何かといえば、詳しい説明は省くが、これは天体とそれが作る重力場の総エネルギー(を 𝑐² で割ったもの)を無限遠で測ったものということになっている。天体の外部の重力場の形は(49)式を通して 𝑀 によって特徴づけられるので 𝑀 を「重力質量」と呼ぶことがある。
また、 𝑀𝑃 には圧力に起因するエネルギー(を 𝑐² で割ったもの)も含まれているので、これは一般的に天体を構成する流体要素の静止質量の総和より大きい。