TOV方程式(31)式を変形すると、 のようになる。(36)式の右辺には(23)式の右辺と同じ部品が含まれているので、そこに(23)式を代入すると、 となる。天体の外部では 𝑝 = 𝜌 = 0 であるから(37)式は 𝐴 にかかわらず成り立っている。天体の内部では(37)式は のようになる。すでに(24)式で 𝐴 の表式は求まっているが、TOV方程式があるおかげで天体の内部では(24)式でも(38)式でも同じだということである。(38)式で 𝐴 を正とした理由や、正の定数倍の任意性があることは、(24)式のときと同様である。
天体の内部では 𝜌 > 0 であるから(35)式をさらに変形すると、 のようになる。この形をTOV方程式と呼ぶこともある。非相対論的極限では、 𝑚(𝑟) は半径 𝑟 以下の部分の質量になり、(39)式は右辺の3つの括弧内の第2項をそれぞれ無視できるので となり、TOV方程式はニュートン力学の静水圧平衡の式に帰着する。
ひとまず1.3節で重力場の方程式から解を導出できたが、TOV方程式(31)式は別の方法で導くこともできるのでそれを紹介する。それはエネルギー運動量保存則の式を使う方法である。
重力場の方程式(1)式にはエネルギー運動量保存則 が含まれている。「含まれている」とは、重力場の方程式の解であれば自動的に(40)式をも満たしている、という意味である。では(40)式からどのような関係が得られるだろうか。
ただし今は混合テンソルを使っているので(40)式を次のように変形しておく。 (41)式は 𝜈 = 0, 1, 2, 3 に対する4個の方程式である。共変微分の定義より、(41)式の左辺は であるから、これの具体的な表式を求めればよい。エネルギー運動量テンソルの表式は1.2節で のように決めたのでこれを使う。クリストッフェル記号は1.2節で(4)式の計量テンソルから(6)〜(8)式のアインシュタインテンソルの表式を求める過程で計算したはずである。それをもう一度書いておくと、0でない成分は であるからこれを使えばよい。(10)・(5-2)式を(42)式に代入すると、 となる。上の式変形では、添え字に具体的な数字(0〜3)を代入する段階で、項の値が0でないものだけを残すようにしている。これらを(41)式に代入すると、第1成分は のようになる。第0, 2, 3成分は 0 = 0 となり何もしなくても最初から成り立っている。(44)式より、 という式が得られる。(45)式は1.4節で導かれた(37)式と同じである。ここまではエネルギー運動量保存則の式を使っただけで、重力場の方程式はまだ使っていない。
1.3節で重力場の方程式の第(0, 0)成分と第(1, 1)成分を使って(23)式が得られたのだった。それを(45)式に代入すると、 となる。これは(31)式とまったく同じ式である。
1.3節では、重力場の方程式の第(2, 2), (3, 3)成分である(13)式から、(23)・(22)式を使って 𝐴 と 𝐵 を消去して、延々と計算した結果(31)式が出てきたのだった。エネルギー運動量保存則を使えばそれと同じ結果がより簡単な計算で出てくるのだ。
だったら重力場の方程式(11)〜(13)式を解いて球対称で定常な時空の計量を求めるには、(13)式を使わないで代わりにエネルギー運動量保存則を使えば楽に解を求められると思うかもしれないが、そう気軽に言えるものでもない。というのは、エネルギー運動量保存則は重力場の方程式を満たすための必要条件であるが、十分条件ではないからだ。だからこの方法で解の候補が見つかったとしても、それが(13)式をも満たしているかどうかは別途確認する必要がある。直接代入して確認するか別の理屈で証明するかはともかく、最初から無条件で(13)式を無視していいものではないのだ。
それならこの節のやり方は今の問題に対してどう役立つのだろうか。たぶん、すでにやり方を知っているけれど答えだけ忘れてしまった場合に、簡単な計算で答えを思い出せるということだろう。