2. 方程式を作る
1節で計量テンソルを未知関数で表したので、解くべき方程式である(1)式にそれを代入する。
計量テンソル→クリストッフェル記号→リッチテンソル→スカラー曲率→アインシュタインテンソルの順に地道に表式を計算していけばよい。
計量テンソル
計量テンソル 𝑔𝜇𝜈 は(13)式のとおりで、もう一度書くと
である。ここからは別途定める場合を除いて 𝐴 や 𝐵 の引数を表す (𝑤, 𝑟) は省略することにする。
この後の計算で添え字が上にある 𝑔𝜇𝜈 が必要になるので計算しておく。それは 𝑔𝜇𝜈 の逆行列であるが、今は対角行列であるから対角成分を逆数にするだけでよいので
である。
計量テンソルの微分
この後でクリストッフェル記号を求める際に 𝑔𝜇𝜈 の微分が必要になるので計算しておく。0でない成分は
である。ただしドット ˙ は座標 𝑤 による微分 を表し、プライム ′ は座標 𝑟 による微分 を表す。これら以外の成分はすべて0である。
計量が対角行列のときに限って使えるクリストッフェル記号の公式
クリストッフェル記号の定義は一般に
である。だが、「シュバルツシルト解(外部解)の導出」の記事の「計量が対角行列のときに限って使えるクリストッフェル記号の公式」のところに書いたように、計量が対角行列のときに限りクリストッフェル記号の公式は3つの添え字のパターンに応じて次のように簡略化される。以下①〜④の欄に限り、アインシュタインの縮約記法を使っておらず、同じ添え字が2回現れても和を取ってはならない。
① 3つの添え字がすべて等しい成分
② 上付添え字のみが異なり、2つの下付添え字が等しい成分
③ 一方の下付添え字のみが異なり、他方の下付添え字と上付添え字が等しい成分
④ 3つの添え字がすべて異なる成分
クリストッフェル記号
ではクリストッフェル記号の各成分の表式を求めよう。(14)〜(21)式を(22)〜(25)式の公式に代入する。
①のパターンは、
が0でないのは(15)・(18)式の場合であるから、
であり、これら以外の場合は0である。②のパターンは、
が0でないのは(16)・(17)・(19)〜(21)式の場合であるから、
であり、これら以外の場合は0である。③のパターンは、
が0でないのは(16)・(17)・(19)〜(21)式の場合であるから、
であり、これら以外の場合は0である。④のパターンはすべて0である。以上でクリストッフェル記号のすべての成分が求まった。まとめてもう一度書いておくと、0でない成分は以下である。
クリストッフェル記号の微分
この後でリッチテンソルを求める際にクリストッフェル記号の微分が必要になるので計算しておく。ただし
のすべての成分がいるわけではなく、 𝜆 = 𝜌 または 𝜆 = 𝜈 である成分が求まれば十分であるから、それらだけを計算する。(26)式をただ微分するだけなので、結果だけを書くと、0でない成分は以下である。
実は(27)・(30)・(34)・(36)式はこの後で使わないので計算する必要はなかったのだがついでに書いておいた。だったら必要になった成分だけをその都度計算すればいいと思うかもしれないが、具体的な表式はともかく、どの成分がゼロでないかは先にまとめて列挙しておく方が楽だと思う。
リッチテンソル 𝑅𝜇𝜈
リーマンテンソル 𝑅𝜌𝜇𝜆𝜈 およびリッチテンソル 𝑅𝜇𝜈 の定義は
である(ただし符号を逆に定義する流儀もある)。そこで(43)式を(44)式に代入すれば
のようになる。
ではリッチテンソルの各成分の表式を求めよう。(45)式を使って、(26)〜(42)式と見比べながら0でない成分を代入していくだけである。この下の式変形では、添え字に具体的な数字(0〜3)を代入する段階で、項の値が0でないものだけを残すようにしている。クリストッフェル記号の縮約 𝛤𝜆𝜇𝜆 を求める公式を知っている人は使いたくなるかもしれないが、今あれを使うとかえって繁雑になってめんどくさいのでやめた方がよいと思う。
まず対角成分は次のようになる。
いちばん最後は、 𝑅₃₃ を計算した結果を 𝑅₂₂ と見比べてみたら 𝑅₂₂ sin² 𝜃 に等しいことがわかった、という意味である。
続いて非対角成分は、
のようになる。(50)式以外は0である。
以上でリッチテンソル 𝑅𝜇𝜈 の表式が求まった。最初の方で書いたように、ここから下に書いてある計算をやらずに(46)〜(55)式を(2)式に代入して方程式を解く作業に進んでも構わない。
リッチテンソル 𝑅𝜇𝜈
次に、1個目の添え字を上にあげた 𝑅𝜇𝜈 = 𝑔𝜇𝜌𝑅𝜌𝜈 を計算する。(14)式と(46)〜(55)式を代入すればよい。
まず対角成分は次のようになる。
続いて非対角成分は、
であり、これら以外の成分がすべて0になることは少し考えればわかる。
以上でリッチテンソル 𝑅𝜇𝜈 の表式が求まった。
スカラー曲率
スカラー曲率(リッチスカラー) 𝑅 の定義は
であるから、(56)〜(59)式を代入して計算すると次のようになる。
アインシュタインテンソル
アインシュタインテンソル 𝐺𝜇𝜈 の定義は
である。 𝛿𝜇𝜈 はクロネッカーのデルタである。では各成分の表式を求めよう。
まず対角成分は次のようになる。
続いて非対角成分は、
であり、これら以外の成分はリッチテンソル 𝑅𝜇𝜈 もクロネッカーのデルタ 𝛿𝜇𝜈 も0だからすべて0である。
方程式の完成
ここまででアインシュタインテンソル 𝐺𝜇𝜈 を未知関数 𝐴 と 𝐵 で表すことができたので、これらを(1)式に代入すれば方程式が完成する。0でない成分は次のようになる。
そしてこれら以外の成分は 0 = 0 となり何もしなくても最初から成り立っている。したがって(60)〜(64)式から成る連立方程式を解けばよいことになる。