バーコフの定理(3)

3. 方程式を解く

2節の最後でできあがった(60)〜(64)式を解く。方程式をもう一度書いておくと、 第(0, 0)成分: 𝐵𝐵2𝑟 +1𝐵𝑟2 1𝑟2 =0 (60) 第(1, 1)成分: 𝐴𝐴𝐵𝑟 +1𝐵𝑟2 1𝑟2 =0 (61) 第(2, 2), (3, 3)成分: 𝐴2𝐴𝐵 𝐴𝐵4𝐴𝐵2 𝐵¨2𝐴𝐵 +𝐵˙24𝐴𝐵2 + 𝐴˙𝐵˙4𝐴2𝐵 +𝐴2𝐴𝐵𝑟 𝐴24𝐴2𝐵 𝐵2𝐵2𝑟 =0 (62) 第(0, 1)成分: 𝐵˙𝐴𝐵𝑟=0 (63) 第(1, 0)成分: 𝐵˙𝐵2𝑟=0 (64) である。これらを解く前にシュバルツシルト解(外部解)の方程式と見比べてみよう。今の問題との条件の違いは、定常に限るか否かだけである。シュバルツシルト解(外部解)の記事の(53)〜(55)式と比べると、第(0, 0)成分と第(1, 1)成分の見た目はまったく同じである。第(2, 2), (3, 3)成分と第(0, 1)成分と第(1, 0)成分は異なる。仮に(60)〜(64)式𝐴˙=0,𝐵˙=0 を代入すれば、当たり前だがシュバルツシルト解(外部解)の方程式に一致する。

では(60)〜(64)式を解いていこう。

第(0, 1)成分と第(1, 0)成分

(63)・(64)式は実質的に同じ式である。これらより 𝐵˙=0(65) となる。これは 𝐵 が 𝑤 に依存せず 𝑟 のみの関数だということであり、つまり 𝐵(𝑤, 𝑟) は 𝐵(𝑟) と書けることになる。

第(0, 0)成分

(60)式には 𝐴 が含まれておらず 𝐵 だけの式なので簡単である。 𝐵𝐵2𝑟 +1𝐵𝑟2 1𝑟2 = 0 (60)式 1𝑟2 ( 𝐵𝑟𝐵21𝐵+1 ) = 0 𝐵𝑟𝐵21𝐵+1 = 0 𝐵𝑟𝐵21𝐵 = 1 ∂𝑟(𝑟𝐵) = 1  𝐵 が 𝑟 のみの関数であることはすでにわかっているから、偏微分は常微分と同じになり、引数を明示して書けば dd𝑟{𝑟𝐵(𝑟)} = 1 𝑟𝐵(𝑟) = 𝑟+𝑟𝑠 𝑟𝑠は積分定数) 1𝐵(𝑟) = 1𝑟𝑠𝑟 𝐵(𝑟) = 11𝑟𝑠𝑟 (66) となって 𝐵 が決まる。これはシュバルツシルト解(外部解)のときとまったく同じ解である。積分定数 𝑟𝑠 の意味も同じである。

第(1, 1)成分

すでに 𝐵 は決まったので、それを(61)式に代入すれば 𝐴 だけの式になる。直ちに代入してももちろん解けるが、その前に(61)式から(60)式を丸ごと引いてみると、 𝐴𝐴𝐵𝑟 +𝐵𝐵2𝑟 = 0 (61)式から(60)式を引いた。 𝐴𝐵+𝐴𝐵 𝐴𝐵2𝑟 = 0 𝐴𝐵+𝐴𝐵=0 ∂𝑟(𝐴𝐵)=0 のようになる。 𝐴 は 𝑤 と 𝑟 の2変数関数であることに注意して、引数を明示して書けば ∂𝑟{𝐴(𝑤,𝑟)𝐵(𝑟)} = 0 𝐴(𝑤,𝑟)𝐵(𝑟) = 𝑏(𝑤) (𝑏(𝑤)は𝑤の任意関数) 𝐴(𝑤,𝑟)1𝑟𝑠𝑟 = 𝑏(𝑤) (66)式を代入した。 𝐴(𝑤,𝑟) = 𝑏(𝑤)(1𝑟𝑠𝑟) (67) となって 𝐴 も決まる。これはシュバルツシルト解(外部解)のときとほとんど同じであり、唯一の違いは 𝑏 が任意定数ではなく 𝑤 の任意関数 𝑏(𝑤) になったことだけである。偏微分方程式だから任意定数でなく任意関数が現れるのだ。ただし1節の最後に書いたように 𝐴 = 0 は解ではないので、恒等的に 𝑏(𝑤) = 0 ではないものとする。

第(2, 2), (3, 3)成分

ここまでで 𝐴 と 𝐵 が決まってしまったが、それらが(62)式をも満たしているか、あるいは任意関数 𝑏(𝑤) に何か制限がつくか等を確認しなければならない。しかし一気に代入すると大変なので、まず(65)式(62)式に代入すると、 𝐴2𝐴𝐵 𝐴𝐵4𝐴𝐵2 +𝐴2𝐴𝐵𝑟 𝐴24𝐴2𝐵 𝐵2𝐵2𝑟 =0 (68) となる。(65)式𝐵˙ を含む項を消すが、それによって自動的に 𝐴˙ を含む項もなくなってしまい、シュバルツシルト解(外部解)のときとまったく同じ方程式になった。(68)式(67)式の 𝐴 と(66)式の 𝐵 を代入して成り立っているかどうかを調べればよいのであるが、その式変形もシュバルツシルト解(外部解)のときと同じであるから、当然成り立っている。 𝑏 が任意定数ではなく任意関数 𝑏(𝑤) になった点だけが異なるが、もはや(68)式には 𝐴˙ が含まれていないのでその違いの影響はない。かくして(62)式も満たされている。したがって(67)(66)式は連立微分方程式(60)〜(64)式の一般解であることがわかった。これらを(13)式に代入すると計量テンソルは (𝑔𝜇𝜈)= ( 𝑏(𝑤)(1𝑟𝑠𝑟) 0 0 0 0 11𝑟𝑠𝑟 0 0 00𝑟20 000𝑟2sin2𝜃 ) (69) となる。

任意関数 𝑏(𝑤)

任意関数 𝑏(𝑤) は恒等的に0でなければ何でもよいのだろうか。

シュバルツシルト解(外部解)の積分定数 𝑏 に関する考察と同様の理屈により、 𝑏(𝑤) は負になってはならない。特定の 𝑤 で一時的に0になる場合は、その場所に限って解が使えなくなるかもしれない。原理的には正であれば特に支障はない。

𝑏(𝑤) のこの任意性は 𝑤 軸の目盛り間隔を 𝑤 の値(時刻)ごとに自由に変えてよいこと(だけ)を表す。座標系は人間が勝手に張るものであるから、それなら 𝑤 軸の目盛り間隔が一定になるように座標系を張れば 𝑏(𝑤) を定数にすることができるし、その目盛り間隔の一定値をある特定の値に合わせれば恒等的に 𝑏(𝑤) = 1 とすることができる。最初からそのような座標系を使ったことにすれば(69)式の一般解は (𝑔𝜇𝜈)= ( (1𝑟𝑠𝑟) 0 0 0 0 11𝑟𝑠𝑟 0 0 00𝑟20 000𝑟2sin2𝜃 ) (70) と書くことができる。これはシュバルツシルト解(外部解)そのものである。

結局、せっかく時間変化してもよいように条件を緩和したのに、出てきた解は時間変化しないシュバルツシルト解(外部解)と何も変わらないのである。解は増えないのだ。

4. バーコフの定理

前節まででわかったことは、とりあえず宇宙定数 𝛬 はゼロだと仮定して、球対称の時空で真空(エネルギー運動量テンソルがゼロ)の領域では計量はシュバルツシルト解(外部解)になる、すなわち静的である(ような座標系を張ることができる)、ということである。このことをバーコフの定理(Birkhoff's theorem)という。よく知らないがよその分野でも「バーコフの定理」と呼ばれるものが別にあるらしいので、混同のおそれがあるときは「相対性理論におけるバーコフの定理」と言った方がいいかもしれない。

「静的」(static) は「定常」(stationary) よりも強い条件である。 𝑥⁰ 座標が時間的であるとき、計量 𝑔𝜇𝜈 が 𝑥⁰ に依存しなければ「定常」と言い、「定常」かつ 𝑔0𝑖=𝑔𝑖0=0 (𝑖=1,2,3) ならば「静的」と言う。バーコフの定理の内容は「〜静的である。」までを含めることがよくあるが、シュバルツシルト解が静的であることは前からわかっていたことである。この定理でいちばん大事なことは、定常という条件を課さないで方程式を解いても定常の解(シュバルツシルト解)しか出てこない、というところだろう。

細かいことを言うと、シュバルツシルト半径の内側では 𝑤 方向は空間的であり 𝑟 方向は時間的であるから、そこでは「静的」とか「定常」というと語弊がある。だから厳密には、球対称性とは関係ない方向(今の場合、 𝑤 方向)に並進対称性をもつということだ。その方向が必ずしも時間的とは限らない。

以下にバーコフの定理の具体的な状況の例を挙げる。

脈動する天体の周囲

球対称を保ちながら膨らんだり縮んだりする天体があったとしよう。そのような状況でも天体の外部の重力場は時間変化しない。その天体と等しい重力質量をもつ定常な天体が存在する場合と同じ重力場になる。当然ながら積分定数 𝑟𝑠 は定数であるから途中で変化したりしない。

もっと激しい現象として、超新星爆発や重力崩壊が起きたとしても、その現象が仮に球対称だったら外部の重力場は一切変化しないことになる。

ニュートン力学でも球対称の物体が作る重力場は中心の質点が作る重力場と同じであったから、自明ではないが特に驚くことでもない。

一様な宇宙内の局所的な真空領域

ここまでは、 𝑟 がある値より小さい場所が天体の内部であり大きい場所が外部(真空)であると考えてきた。しかしちょっと考えれば、逆に 𝑟 がある値より小さい場所だけで真空になっている状況でも、今解いた方程式が適用できることがわかる。このことから、仮に原点付近が真空 (𝑟𝑠 = 0) だとして原点から見て宇宙全体の物質が近似的に球対称だとみなせるならば、それが遠ざかったり近づいたりしていても(もちろん静止していても)、原点付近の真空の領域は近似的に平坦(ミンコフスキー時空)になると考えられる。

ニュートン力学でも球殻の内側では球殻が作る重力は打ち消し合ってゼロになるから、自明ではないが特に驚くことでもない。

ただし、この記事でやった計算は宇宙定数 𝛬 がゼロである場合の話なのであった。だから 𝛬 がゼロでなかったらどうなるかはここでは何も言えない。それは別の記事「宇宙項があったらシュバルツシルト解はどう変わるか」で考える。

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