重力場の方程式の自明でない厳密解の中で最も単純なものとして、別の記事で球対称・定常・真空の解であるシュバルツシルト解(外部解)を導出した。あれは宇宙項を無視したもの(あるいは同じことだが、宇宙定数をゼロとしたもの)だった。シュバルツシルト先生がシュバルツシルト解を発見したのは1915年(出版は1916年)のことであり、それはアインシュタイン先生がアインシュタイン方程式に宇宙項を書き加えた1917年より過去の出来事だから、宇宙項が考慮されていないのは当たり前だ。
では宇宙項を考慮したらシュバルツシルト解はどう変わるのだろうか。現実の宇宙では宇宙定数の値は極めてゼロに近く、考える範囲が(宇宙全体に比べて)狭いときは宇宙項の影響はとても小さいからたいていは気にしない。だが、「厳密解」というからには宇宙項が厳密にはどのように解に影響するのか知りたくなる。それを計算してみよう。
非線形2階偏微分方程式である重力場の方程式(アインシュタイン方程式)に宇宙項なんかが付いていたらさらにややこしくなりそうである。しかし心配する必要はない。今までと同じようなやり方で解いていけばあっさりと厳密解が求まるのだ。
重力場の方程式は一般に のような形で書かれる(ただしどれかの項の符号が逆になる流儀もある)。 𝐺𝜇𝜈 はアインシュタインテンソル、 𝑔𝜇𝜈 は計量テンソル、 𝑇𝜇𝜈 はエネルギー運動量テンソルである。 𝛬 と 𝜅 は定数である。
シュバルツシルト解(外部解)のときと同様、真空であるから 𝑇𝜇𝜈 = 0 と置く。宇宙定数 𝛬 は今回はそのまま残しておく。したがって(1)式は という形になる。そして今までと同じように、反変テンソルではなく片方の添え字をおろした混合テンソルによる方程式 を解くことにする。 𝛿𝜇𝜈 はクロネッカーのデルタである。
さて、宇宙定数がゼロでないとき、時空は定常になるのだろうか。それは方程式を解いてみないとわからない。
シュバルツシルト解(外部解)のときはまず定常の条件で方程式を解いた後、「バーコフの定理」の記事で条件を緩めて定常でなくてもよいことにして改めて方程式を解いたのだった。電荷があるライスナー・ノルドシュトルム解のときも同じような手順をたどった。
今回も同じようにしても構わないが、もう慣れてきただろうし二度手間になると面倒なので、最初から定常の条件は無しで時間変化しても構わない条件で方程式を解くことにしよう。
座標系の形はシュバルツシルト解やバーコフの定理のときと同様に次のように仮定する。
ただし、まだ方程式が解けたわけではないので、上に書いた座標の意味は仮定である。
計量テンソルはバーコフの定理のときと同様に、 と仮定すればよい。 𝐴(𝑤, 𝑟) および 𝐵(𝑤, 𝑟) は 𝑤 と 𝑟 に依存する未知関数である。したがって線素の式は となる。これはシュバルツシルト解(外部解)を導出したときに仮定した計量と同じ形であり、ただ未知関数の引数に 𝑤 が追加されたところだけが違う。
シュバルツシルト解やバーコフの定理のときと同様に、恒等的に 𝐴(𝑤, 𝑟) = 0 や 𝐵(𝑤, 𝑟) = 0 ではないこととする。境界条件は現段階では特に定めない。もし必要になったらそのときに考える。
解くべき方程式である(3)式の具体的な表式を求めよう。ここからは別途定める場合を除いて 𝐴 や 𝐵 の引数を表す (𝑤, 𝑟) は省略することにする。
アインシュタインテンソル 𝐺𝜇𝜈 は「バーコフの定理」のときと同じになるから、計算過程は「バーコフの定理」の記事を見てもらうこととして、結果はその記事の「アインシュタインテンソル」のところに書いてある式をそのままもってくればよくて、 であり、これら以外の成分は0である。ただしドット ˙ は座標 𝑤 による微分 を表し、プライム ′ は座標 𝑟 による微分 を表す。
では(11)〜(15)式を解いていこう。
(14)・(15)式は実質的に同じ式である。これらより となる。これは 𝐵 が 𝑤 に依存せず 𝑟 のみの関数だということであり、つまり 𝐵(𝑤, 𝑟) は 𝐵(𝑟) と書けることになる。
(11)式には 𝐴 が含まれておらず 𝐵 だけの式なので簡単である。 𝐵 が 𝑟 のみの関数であることはすでにわかっているから、偏微分は常微分と同じになり、引数を明示して書けば となって 𝐵 が決まる。
すでに 𝐵 は決まったので、それを(12)式に代入すれば 𝐴 だけの式になる。直ちに代入してももちろん解けるが、その前に(12)式から(11)式を丸ごと引いてみると、 のようになる。 𝐴 は 𝑤 と 𝑟 の2変数関数であることに注意して、引数を明示して書けば となって 𝐴 も決まる。1.1節の最後に書いたように 𝐴 = 0 は解ではないので、恒等的に 𝑏(𝑤) = 0 ではないものとする。
(11)・(12)・(14)・(15)式から 𝐴 と 𝐵 が決まってしまったが、それらが(13)式をも満たしているか、あるいは任意関数 𝑏(𝑤) に何か制限がつくか等を確認しなければならない。(20)・(18)式をそのまま(13)式の左辺に代入しても構わないがそれは式変形が大変である。それよりも(17)式と(20)式を比較することにより、あるいは(19)式を変形して、 であることがわかるので、この関係を先に使うと計算が楽である。(16)・(19)〜(21)式を(13)式の左辺に代入すると、 となって0になるので、(13)式も満たされている。したがって(20)・(18)式は連立微分方程式(11)〜(15)式の一般解であることがわかった。これらを(4)式に代入すると計量テンソルは となる。
任意定数 𝑟𝑠 はシュバルツシルト解のときと同様にシュバルツシルト半径だと考えればよい。
任意関数 𝑏(𝑤) は、「バーコフの定理」の記事で任意関数 𝑏(𝑤) に関して考察したときと同様の理屈により、 𝑤 軸の目盛り間隔を適切な値にすることにより恒等的に 𝑏(𝑤) = 1 とすることができる。したがって解は と書くことができる。シュバルツシルト解(外部解)との違いは、 𝑔₀₀ の括弧内および 𝑔₁₁ の分母に現れた である。 𝛬 がすごく0に近いならば、原点からすごく離れた遠いところでない限り 𝛬 の影響は考えなくてもよいことがわかる。原点からすごく離れた遠いところでどう影響するのかは次のページで考える。
この計量に 𝑤 依存性はない。今回は計量が 𝑤 に依存しても構わない条件で方程式を解いたが、出てきたのは 𝑤 に依存しない解だけである。つまり 𝛬 ≠ 0 のときでも、 𝛬 = 0 のときの「バーコフの定理」と同様に、真空球対称の解ならば 𝑤 方向に並進対称性をもつ。 𝑤 座標が時間的ならばそれは定常解である。