重力場の方程式の自明でない厳密解の中で最も単純なものとして、別の記事で球対称・定常・真空の解であるシュバルツシルト解(外部解)を導出した。それは物理的には、孤立した球対称・定常の物体の外部で成り立つ解である。そのときは電荷や電磁場はゼロとしていた。では物体が電荷をもっていると解はどう変わるのか、この記事ではそのような状況の解を求めたい。しかし帯電した物体の内部の解を求めるのは面倒なので、球対称の物体が電荷をもっていると仮定して外部の重力場や電磁場がどのようになるかを求める。重力や電磁気力の源である物体が球対称なのだから、外部の重力場や電磁場も球対称になっているはずだ。この解をライスナー・ノルドシュトルム解 (Reissner–Nordström solution) と呼ぶ。
シュバルツシルト解(外部解・内部解)の導き方を知っていれば、ライスナー・ノルドシュトルム解を導くのも簡単である。巧妙な計算テクニックや他の物理法則の関係式を動員する必要はなく、重力場の方程式に対して単純な式変形をするだけで解ける。
今までのシュバルツシルト解のときと同様に、重力場の方程式は宇宙定数 𝛬 をゼロとして混合テンソルによる方程式 を解くことにする。 𝐺𝜇𝜈 はアインシュタインテンソル、 𝑇𝜇𝜈 はエネルギー運動量テンソル、 𝐺 は万有引力定数、 𝑐 は光速である。
座標系の形はシュバルツシルト解のときと同様に次のように仮定する。
ただし、まだ方程式が解けたわけではないので、上に書いた座標の意味は仮定である。
計量テンソルの形もシュバルツシルト解のときと同様に、 と仮定する。 𝐴(𝑟) および 𝐵(𝑟) は 𝑟 のみに依存する未知関数である。したがって線素の式は となる。
電磁場テンソル 𝐹𝜇𝜈 は反対称テンソルであるから という形の6個の独立成分で書くことができる。これらはすべて定常であるから 𝑤 には依存しない。しかしこのままでは未知関数が多すぎて手に負えない。球対称だという条件を使って簡単にする方法を考えてみよう。
もし 𝐹₀₂ や 𝐹₀₃ が0でなかったら、荷電粒子が特定の円周方向に力を受けることになる。もし 𝐹₁₂ や 𝐹₁₃ が0でなかったら、動径方向に運動している荷電粒子が特定の円周方向に力を受けることになる。しかし今は球対称だから円周方向に特別な方向が存在しては困るので、これらの4個はすべて0でなければならない。 𝐹₂₃ については、これの値をうまく調整すれば球対称の(0でない)磁場になるが、そのようなものは磁場のガウスの法則に違反しそうである。だから 𝐹₂₃ も0にしておくのがよさそうだ。その結果、0でなくても良いのは 𝐹₀₁ だけになる。そして電磁場は球対称であり、 𝑤, 𝑟 座標の基底も角度座標 𝜃, 𝜑 に依存せず球対称であるから、 𝐹₀₁ も 𝜃, 𝜑 には依存せず 𝑟 のみの関数になるはずだ。
上ではまわりくどく説明したが、もっと雑に考えると、今は電荷はあるけど(3次元的な)電流はないから磁場もないだろうし、電場は動径方向の成分しかないはずだから、 𝐹₀₁ 以外は0だろう、ということである。ただ、曲がった時空でそのような雑な考え方でいいのか心配だったから1成分ずつ丁寧に考えてみただけだ。
それで と置けば、電磁場テンソルは のように表される。 𝐸(𝑟) は 𝑟 のみに依存する未知関数である。
シュバルツシルト解のときと同様に、恒等的に 𝐴(𝑟) = 0 や 𝐵(𝑟) = 0 ではないこととする。境界条件は現段階では特に定めない。もし必要になったらそのときに考える。
解くべき方程式である(1)式の具体的な表式を求めよう。ここからは 𝐴 や 𝐵 や 𝐸 の引数を表す (𝑟) は省略することにする。
(2)式の計量テンソルはシュバルツシルト解のときとまったく同じであるから、それを元にしてアインシュタインテンソルの表式を求めるまでの手順も同じである。つまり、まず添え字が上にある 𝑔𝜇𝜈 は となり、次にクリストッフェル記号の0でない成分は となる。このようにしてアインシュタインテンソルの表式を求めるまでの計算過程はシュバルツシルト(外部解)の記事の2.2節を見てもらうこととしてここでは結果だけを書くと、対角成分は であり、非対角成分はすべて0である。ただしプライム ′ は座標 𝑟 による微分 を表す。
電磁場のエネルギー運動量テンソルは、混合テンソルで書けば である(ただし符号が逆になる流儀もある)。 𝜇₀ は真空の透磁率、 𝜀₀ は真空の誘電率、 𝛿𝜇𝜈 はクロネッカーのデルタである。この量はたいてい1行目のように 𝜇₀ を使って書かれることが多いが、今回は都合により 𝜀₀ を使って表しておく。
(9)式の各成分を求めるために が必要であるからそれを計算する。(3)式より 𝐹𝜇𝜈 の0でない成分は 𝐹₀₁ と 𝐹₁₀ だけであり、(4)式より 𝑔𝜇𝜈 の0でない成分は対角成分だけであるから、 であり、これら以外の成分はすべて0である。まとめて書けば のようになる。また、(9)式の右辺の括弧内第2項の中にある電磁場テンソルの縮約は である。(3)・(10)・(11)式を使えば、(9)式の各成分は であり、非対角成分はすべて0である。
ここまででアインシュタインテンソル 𝐺𝜇𝜈 は(6)〜(8)式で、エネルギー運動量テンソル 𝑇𝜇𝜈 は(12)〜(14)式で、未知関数を使って表すことができたので、これらを(1)式に代入すれば方程式が完成する。対角成分は次のようになる。 そして非対角成分は 0 = 0 となり何もしなくても最初から成り立っている。したがって(15)〜(17)式から成る連立方程式を解けばよいことになる。