ライスナー・ノルドシュトルム解の導出(3)

1.4 【別解】マクスウェル方程式を使う

1.3節では先に重力場の方程式(アインシュタイン方程式)だけを使って解を求めてから、その解が電磁場の方程式(マクスウェル方程式)をも満たしていることを後で(読者が演習問題として)確認したのだった。だが、もっと早い段階でマクスウェル方程式を使って解を求めることもできるので、そのやり方を紹介する。

マクスウェル方程式を作る

一般相対性理論でマクスウェル方程式は 𝜈𝐹𝜆𝜈=𝜇0𝑗𝜆 (33) 𝜆𝐹𝜇𝜈+ 𝜇𝐹𝜈𝜆+ 𝜈𝐹𝜆𝜇 =0 (34) の2つである。(33)式の 𝑗𝜆 は4元電流密度である。もし4元電磁ポテンシャルを使って電磁場テンソルを定義したのなら(34)式は自動的に成り立つので考えなくてよいが、今回は直接電磁場テンソルを定義したので(34)式も必要である。

(34)式の方が簡単なのでそれを先に考えよう。(34)式は3つの添え字がすべて異なるときだけ意味を持つ。なぜなら 𝐹𝜇𝜈 が反対称だからどれかの添え字同士が等しいと左辺は恒等的に0になってしまって 𝐹𝜇𝜈 に対して何の制限も課さないからだ。ところで(3)式より、0でない 𝐹𝜇𝜈 は 𝐹₀₁ と 𝐹₁₀ だけであるが、それらは 𝑥¹ (= 𝑟) のみの関数であり 𝑥² (= 𝜃) や 𝑥³ (= 𝜑) には依存しない。ということは(34)式の左辺の項のうち3つの添え字がすべて異なるような項はすべて0になるから、(34)式はすべての成分が 0 = 0 となり何もしなくても最初から成り立っている。

次に(33)式については、今は帯電した物体の外部で成り立つ解を考えているので右辺の4元電流密度は0である。左辺は共変微分の定義より、 𝜈𝐹𝜆𝜈 = 𝜈𝐹𝜆𝜈 + 𝛤𝜆𝜌𝜈𝐹𝜌𝜈 + 𝛤𝜈𝜌𝜈𝐹𝜆𝜌 (35) であるから、これの具体的な表式を求めればよい。電磁場テンソル 𝐹𝜇𝜈 は1.2節 (𝐹𝜇𝜈)= ( 0 𝐸𝑐𝐴𝐵 0 0 𝐸𝑐𝐴𝐵 0 0 0 0000 0000 ) (10)式 のように決めたのでこれを使う。クリストッフェル記号は1.2節(2)式の計量テンソルから(6)〜(8)式のアインシュタインテンソルの表式を求める過程で計算したはずである。それをもう一度書いておくと、0でない成分は 𝛤100= 𝐴2𝐵 , 𝛤010= 𝛤001= 𝐴2𝐴 , 𝛤111= 𝐵2𝐵 , 𝛤212= 𝛤221= 1𝑟 , 𝛤313= 𝛤331= 1𝑟 , 𝛤122= 𝑟𝐵 , 𝛤323= 𝛤332= cot𝜃 , 𝛤133= 𝑟𝐵sin2𝜃 , 𝛤233 = sin𝜃cos𝜃 (5)式 であるからこれを使えばよい。(10)(5)式(35)式に代入すると、 𝜈𝐹0𝜈 = 𝜈𝐹0𝜈 + 𝛤0𝜌𝜈𝐹𝜌𝜈 + 𝛤𝜈𝜌𝜈𝐹0𝜌 = 1𝐹01 + ( 𝛤001𝐹01 + 𝛤010𝐹10 ) + ( 𝛤010+ 𝛤111+ 𝛤212+ 𝛤313 ) 𝐹01 = 𝑟𝐸𝑐𝐴𝐵 + ( 𝛤010𝐹01 𝛤010𝐹01 ) + ( 𝐴2𝐴+ 𝐵2𝐵+ 1𝑟+ 1𝑟 ) 𝐸𝑐𝐴𝐵 = 𝑟𝐸𝑐𝐴𝐵 + ( 𝐴𝐵+𝐴𝐵2𝐴𝐵 +2𝑟 ) 𝐸𝑐𝐴𝐵 = (𝐸𝑐𝐴𝐵) + { (𝐴𝐵)2𝐴𝐵 +2𝑟 } 𝐸𝑐𝐴𝐵 𝜈𝐹1𝜈 = 𝜈𝐹1𝜈 + 𝛤1𝜌𝜈𝐹𝜌𝜈 + 𝛤𝜈𝜌𝜈𝐹1𝜌 =0+0+0 =0 𝜈𝐹2𝜈 = 𝜈𝐹2𝜈 + 𝛤2𝜌𝜈𝐹𝜌𝜈 + 𝛤𝜈𝜌𝜈𝐹2𝜌 =0+0+0 =0 𝜈𝐹3𝜈 = 𝜈𝐹3𝜈 + 𝛤3𝜌𝜈𝐹𝜌𝜈 + 𝛤𝜈𝜌𝜈𝐹3𝜌 =0+0+0 =0 となる。上の式変形では、添え字に具体的な数字(0〜3)を代入する段階で、項の値が0でないものだけを残すようにしている。これらを(33)式に代入すると、第0成分は (𝐸𝑐𝐴𝐵) + { (𝐴𝐵)2𝐴𝐵 +2𝑟 } 𝐸𝑐𝐴𝐵 = 0 (36) のようになる。第1, 2, 3成分は 0 = 0 となり何もしなくても最初から成り立っている。

以上より、解くべきマクスウェル方程式は(36)式だけである。そして解くべきアインシュタイン方程式は 𝐵𝐵2𝑟 +1𝐵𝑟2 1𝑟2 = 4𝜋𝐺𝜀0𝐸2 𝑐4𝐴𝐵 (15)式 𝐴𝐴𝐵𝑟 +1𝐵𝑟2 1𝑟2 = 4𝜋𝐺𝜀0𝐸2 𝑐4𝐴𝐵 (16)式 𝐴2𝐴𝐵 𝐴𝐵4𝐴𝐵2 +𝐴2𝐴𝐵𝑟 𝐴24𝐴2𝐵 𝐵2𝐵2𝑟 = 4𝜋𝐺𝜀0𝐸2 𝑐4𝐴𝐵 (17)式 であった。

方程式を解く

方程式を解く作業の最初の一手は1.3節と同じで、(16)式から(15)式を丸ごと引くと、 𝐴𝐴𝐵𝑟 +𝐵𝐵2𝑟 = 0 (16)式から(15)式を引いた。 𝐴𝐵+𝐴𝐵 𝐴𝐵2𝑟 = 0 𝐴𝐵+𝐴𝐵=0 (𝐴𝐵)=0 (37) 𝐴𝐵=𝑏(𝑏は積分定数) (18)式 のようになる。ここでマクスウェル方程式を使う。(37)・(18)式(36)式に代入すると、 (𝐸𝑐𝐴𝐵) + { (𝐴𝐵)2𝐴𝐵 +2𝑟 } 𝐸𝑐𝐴𝐵 = 0 (36)式 (𝐸𝑐𝑏) +(0+2𝑟)𝐸𝑐𝑏 = 0 (37)・(18)式を代入した。 𝐸𝑐𝑏 +2𝐸𝑐𝑏𝑟 = 0 𝐸𝑟+2𝐸𝑐𝑏𝑟 = 0 𝐸𝑟2+2𝐸𝑟 𝑐𝑏𝑟2 = 0 𝐸𝑟2+2𝐸𝑟 = 0 (𝐸𝑟2) = 0 𝐸𝑟2=𝑞 (𝑞は積分定数) 𝐸=𝑞𝑟2 (38) となって 𝐸 が決まる。次に、(18)(38)式(15)式に代入すると、 𝐵𝐵2𝑟 +1𝐵𝑟2 1𝑟2 = 4𝜋𝐺𝜀0𝐸2 𝑐4𝐴𝐵 (15)式 𝐵𝐵2𝑟 +1𝐵𝑟2 1𝑟2 = 4𝜋𝐺𝜀0𝑞2 𝑐4𝑏𝑟4 (18)(38)式を代入した。 𝐵𝑟𝐵2 1𝐵 +1 = 4𝜋𝐺𝜀0𝑞2 𝑐4𝑏𝑟2 𝐵𝑟𝐵2 1𝐵 = 1 + 4𝜋𝐺𝜀0𝑞2 𝑐4𝑏𝑟2 (𝑟𝐵) = 1 + 4𝜋𝐺𝜀0𝑞2 𝑐4𝑏𝑟2 𝑟𝐵 = 𝑟 4𝜋𝐺𝜀0𝑞2 𝑐4𝑏𝑟 +𝑟𝑠 𝑟𝑠は積分定数) 1𝐵 = 1+ 4𝜋𝐺𝜀0𝑞2 𝑐4𝑏𝑟2 𝑟𝑠𝑟 𝐵 = 1 1 𝑟𝑠𝑟+ 4𝜋𝐺𝜀0𝑞2 𝑐4𝑏𝑟2 (39) となって 𝐵 が決まる。次に、(39)式(18)式に代入すると、 𝐴𝐵=𝑏 (18)式 𝐴 1 𝑟𝑠𝑟+ 4𝜋𝐺𝜀0𝑞2 𝑐4𝑏𝑟2 = 𝑏 (39)式を代入した。 𝐴 = 𝑏 ( 1 𝑟𝑠𝑟+ 4𝜋𝐺𝜀0𝑞2 𝑐4𝑏𝑟2 ) (40) となって 𝐴 が決まる。これですべての未知関数が決まった。

これらの解は1.3節の解と比較すると、3つある積分定数のうち1つの使い方が異なるだけで、当然ながら同じ解である。ここまででまだ(17)式を使っていないので、あとは(38)(39)(40)式(17)式をも満たしていることを確認すれば、解の導出は完了する。すでに1.3節で(17)式を使って同じ解を導いているのでその確認作業をここに書くことは割愛するが、この節のやり方だけを使って解いた人はその確認作業を省略してはいけない。

積分定数の値を決める計算は、1.3節と同じようにやればよい。

⛭ 数式の表示設定 (S)