第1章では定常解を求めたが、定常でなければ他にどんな解が許されるだろうか。電荷がないシュバルツシルト解(外部解)の場合は「バーコフの定理」の記事でやったように、時間変化を許すように条件を緩和しても相変わらず定常解しか出てこなくて解は増えないのだった。電荷があるライスナー・ノルドシュトルム解で同様に条件を緩めたらどうなるか考えてみる。
第1章では未知関数 𝐴(𝑟) , 𝐵(𝑟) , 𝐸(𝑟) は 𝑟 のみの関数だった。ここでは時間にも依存するとして、 𝐴(𝑤, 𝑟) , 𝐵(𝑤, 𝑟) , 𝐸(𝑤, 𝑟) としておく。このとき、解くべき方程式である はどのように変わるだろうか。
(1)式の左辺のアインシュタインテンソル 𝐺𝜇𝜈 は「バーコフの定理」のときと同じになるから、その記事の「アインシュタインテンソル」のところに書いてある式をそのままもってくればよくて、 であり、これら以外の成分は0である。ただしドット ˙ は座標 𝑤 による微分 を表し、プライム ′ は座標 𝑟 による微分 を表す。
(1)式の右辺のエネルギー運動量テンソル 𝑇𝜇𝜈 は、それを求めるときに 𝐸 を微分するような操作はないから 𝐸 が 𝐸(𝑟) だろうと 𝐸(𝑤, 𝑟) だろうと式の形は何も変わらないから、第1章の(12)〜(14)式をそのままもってくればよくて、 であり、これら以外の成分は0である。
(41)〜(45)・(12)〜(14)式を(1)式に代入すると、解くべき方程式は である。
話の展開は「バーコフの定理」のときと同じである。(49)・(50)式より、 となる。そして(51)式を(48)式に代入すると が消えるとともに も消えて、第1章の(17)式と同じ形の式になる。(46)・(47)式は元から第1章の(15)・(16)式と同じ形である。したがって出てくる解もほぼ同じであり、ただ唯一の違いは第1章で任意定数 𝑏 だったものが今度は 𝑤 の任意関数 𝑏(𝑤) になることである(1.4節のやり方だと 𝑞 も 𝑞(𝑤) になるが、積分定数の名付け方の違いに起因する見かけ上だけの違いである)。だがそれも「バーコフの定理」のときと同様に、座標系をうまく張ることで 𝑏(𝑤) = 1 とすることができる。結局、定常の条件を課したときと同じ解しか出てこないのだ。
以上により、物体が電荷をもっているときでも、そうでないときと同様に、物体の外部は球対称なら定常解に限られる。今のように電荷がある場合でも「バーコフの定理」と呼ぶのかどうかは知らない。
ライスナー・ノルドシュトルム解の線素の式を改めて書くと、 である。 𝑘 を含む項がシュバルツシルト解からのずれを表している。 𝑟 が大きいところでずれは小さく、 𝑟 = 0 の近傍でずれが大きくなる。この解は物体の外部でしか成り立たないから、帯電した普通の物体が中心にあるときは 𝑟 = 0 の近傍のことは考えなくてよいが、ブラックホールの場合は解の適用範囲が 𝑟 → 0 まで広がる。
𝑟𝑠 と 𝑘 との関係に応じて解の性質は次のように変わる。
それぞれの場合の 𝑔₀₀ と 𝑔₁₁ の挙動は図1のようになる。どの場合でも 𝑟 = 0 は真の特異点である。③は特異点が事象の地平面に囲まれておらずむき出しになっていて一大事である。
ちょうど②になるときの電荷と質量の関係を計算してみると、 になっていることがわかる。(52)式の両辺は、電荷が 𝑄 で質量が 𝑀 の同じ物体を2つ持ってきて1m離して置いたときに両物体の間に働く電磁気力(斥力)と重力(引力)の大きさを、非相対論的に計算したものと同じである。それが等号でつながっているので、2つの力が釣り合うということだ(1m離して釣り合うなら何m離しても釣り合う)。もし左辺の方が小さければ①になるし大きければ③になる。地平面の有無を分ける条件と、静電力と重力が釣り合う(非相対論的な)条件が、なぜ一致するのかは知らない。偶然なのだろうか。
解の性質について話すと長くなりそうである。解の導出はもうできたので、当記事はここまでにしておこう。