ライスナー・ノルドシュトルム解の導出(4)

第2章 定常でなくてもよい場合の解

第1章では定常解を求めたが、定常でなければ他にどんな解が許されるだろうか。電荷がないシュバルツシルト解(外部解)の場合は「バーコフの定理」の記事でやったように、時間変化を許すように条件を緩和しても相変わらず定常解しか出てこなくて解は増えないのだった。電荷があるライスナー・ノルドシュトルム解で同様に条件を緩めたらどうなるか考えてみる。

2.1 方程式を作る

第1章では未知関数 𝐴(𝑟) , 𝐵(𝑟) , 𝐸(𝑟) は 𝑟 のみの関数だった。ここでは時間にも依存するとして、 𝐴(𝑤, 𝑟) , 𝐵(𝑤, 𝑟) , 𝐸(𝑤, 𝑟) としておく。このとき、解くべき方程式である 𝐺𝜇𝜈= 8𝜋𝐺𝑐4 𝑇𝜇𝜈 (1)式 はどのように変わるだろうか。

(1)式の左辺のアインシュタインテンソル 𝐺𝜇𝜈 は「バーコフの定理」のときと同じになるから、その記事の「アインシュタインテンソル」のところに書いてある式をそのままもってくればよくて、 𝐺00 = 𝐵𝐵2𝑟 +1𝐵𝑟2 1𝑟2 (41) 𝐺11 = 𝐴𝐴𝐵𝑟 +1𝐵𝑟2 1𝑟2 (42) 𝐺22= 𝐺33 = 𝐴2𝐴𝐵 𝐴𝐵4𝐴𝐵2 𝐵¨2𝐴𝐵 +𝐵˙24𝐴𝐵2 + 𝐴˙𝐵˙4𝐴2𝐵 +𝐴2𝐴𝐵𝑟 𝐴24𝐴2𝐵 𝐵2𝐵2𝑟 (43) 𝐺01 = 𝐵˙𝐴𝐵𝑟 (44) 𝐺10 = 𝐵˙𝐵2𝑟 (45) であり、これら以外の成分は0である。ただしドット ˙ は座標 𝑤 による微分 ∂𝑤 を表し、プライム ′ は座標 𝑟 による微分 ∂𝑟 を表す。

(1)式の右辺のエネルギー運動量テンソル 𝑇𝜇𝜈 は、それを求めるときに 𝐸 を微分するような操作はないから 𝐸 が 𝐸(𝑟) だろうと 𝐸(𝑤, 𝑟) だろうと式の形は何も変わらないから、第1章の(12)〜(14)式をそのままもってくればよくて、 𝑇00 = 𝜀0𝐸22𝐴𝐵 (12)式 𝑇11 = 𝜀0𝐸22𝐴𝐵 (13)式 𝑇22= 𝑇33 = 𝜀0𝐸22𝐴𝐵 (14)式 であり、これら以外の成分は0である。

(41)〜(45)(12)〜(14)式(1)式に代入すると、解くべき方程式は 第(0, 0)成分: 𝐵𝐵2𝑟 +1𝐵𝑟2 1𝑟2 = 4𝜋𝐺𝜀0𝐸2 𝑐4𝐴𝐵 (46) 第(1, 1)成分: 𝐴𝐴𝐵𝑟 +1𝐵𝑟2 1𝑟2 = 4𝜋𝐺𝜀0𝐸2 𝑐4𝐴𝐵 (47) 第(2, 2), (3, 3)成分: 𝐴2𝐴𝐵 𝐴𝐵4𝐴𝐵2 𝐵¨2𝐴𝐵 +𝐵˙24𝐴𝐵2 + 𝐴˙𝐵˙4𝐴2𝐵 +𝐴2𝐴𝐵𝑟 𝐴24𝐴2𝐵 𝐵2𝐵2𝑟 = 4𝜋𝐺𝜀0𝐸2 𝑐4𝐴𝐵 (48) 第(0, 1)成分: 𝐵˙𝐴𝐵𝑟=0 (49) 第(1, 0)成分: 𝐵˙𝐵2𝑟=0 (50) である。

2.2 方程式を解く

話の展開は「バーコフの定理」のときと同じである。(49)・(50)式より、 𝐵˙=0(51) となる。そして(51)式(48)式に代入すると 𝐵˙ が消えるとともに 𝐴˙ も消えて、第1章の(17)式と同じ形の式になる。(46)・(47)式は元から第1章の(15)・(16)式と同じ形である。したがって出てくる解もほぼ同じであり、ただ唯一の違いは第1章で任意定数 𝑏 だったものが今度は 𝑤 の任意関数 𝑏(𝑤) になることである(1.4節のやり方だと 𝑞 も 𝑞(𝑤) になるが、積分定数の名付け方の違いに起因する見かけ上だけの違いである)。だがそれも「バーコフの定理」のときと同様に、座標系をうまく張ることで 𝑏(𝑤) = 1 とすることができる。結局、定常の条件を課したときと同じ解しか出てこないのだ。

以上により、物体が電荷をもっているときでも、そうでないときと同様に、物体の外部は球対称なら定常解に限られる。今のように電荷がある場合でも「バーコフの定理」と呼ぶのかどうかは知らない。

第3章 解の分類

ライスナー・ノルドシュトルム解の線素の式を改めて書くと、 d𝑠2 = (1𝑟𝑠𝑟+𝑘𝑟2) d𝑤2 + 11𝑟𝑠𝑟+𝑘𝑟2 d𝑟2 +𝑟2 (d𝜃2+sin2𝜃d𝜑2) ただし 𝑟𝑠=2𝐺𝑀𝑐2 , 𝑘= 𝐺𝑄24𝜋𝜀0𝑐4 である。 𝑘 を含む項がシュバルツシルト解からのずれを表している。 𝑟 が大きいところでずれは小さく、 𝑟 = 0 の近傍でずれが大きくなる。この解は物体の外部でしか成り立たないから、帯電した普通の物体が中心にあるときは 𝑟 = 0 の近傍のことは考えなくてよいが、ブラックホールの場合は解の適用範囲が 𝑟 → 0 まで広がる。

𝑟𝑠 と 𝑘 との関係に応じて解の性質は次のように変わる。

⓪ 𝑘 = 0 のとき
シュバルツシルト解(外部解)そのものである。
0<𝑘<𝑟𝑠24 のとき
𝑟=𝑟±= 𝑟𝑠2 ±𝑟𝑠24𝑘 の2か所に地平面ができる。これらは座標特異点であり、うまく座標変換することで特異性は除去できる。 𝑟 = 𝑟+ (< 𝑟𝑠) がブラックホールの表面である。 𝑟 < 𝑟 < 𝑟+ の領域では 𝑤 座標が空間的、 𝑟 座標が時間的になっている。 0 < 𝑟 < 𝑟 の領域まで行くと再び 𝑤 座標が時間的、 𝑟 座標が空間的になる。そこでは時間は 𝑤 の正負どちら向きに流れているのかって? それはまた別の機会に考えよう。
𝑘=𝑟𝑠24 のとき
 𝑟+ と 𝑟 が一致し、 𝑟=𝑟𝑠2 に事象の地平面ができる。
𝑟𝑠24<𝑘 のとき
事象の地平面はない。

それぞれの場合の 𝑔₀₀ と 𝑔₁₁ の挙動は図1のようになる。どの場合でも 𝑟 = 0 は真の特異点である。③は特異点が事象の地平面に囲まれておらずむき出しになっていて一大事である。

ライスナー・ノルドシュトルム解の計量 𝑔₀₀, 𝑔₁₁ のグラフ ⓪ 𝑘 = 0 のとき ライスナー・ノルドシュトルム解の計量 𝑔₀₀, 𝑔₁₁ のグラフ ① 0 < 𝑘 < 𝑟ₛ²∕4 のとき ライスナー・ノルドシュトルム解の計量 𝑔₀₀, 𝑔₁₁ のグラフ ② 𝑘 = 𝑟ₛ²∕4 のとき ライスナー・ノルドシュトルム解の計量 𝑔₀₀, 𝑔₁₁ のグラフ ③ 𝑟ₛ²∕4 < 𝑘 のとき
図1. ライスナー・ノルドシュトルム解の計量 𝑔₀₀ , 𝑔₁₁ の挙動

ちょうど②になるときの電荷と質量の関係を計算してみると、 𝑘 = 𝑟𝑠24 𝐺𝑄24𝜋𝜀0𝑐4 = 𝐺2𝑀2𝑐4 𝑄24𝜋𝜀0 = 𝐺𝑀2 (52) になっていることがわかる。(52)式の両辺は、電荷が 𝑄 で質量が 𝑀 の同じ物体を2つ持ってきて1m離して置いたときに両物体の間に働く電磁気力(斥力)と重力(引力)の大きさを、非相対論的に計算したものと同じである。それが等号でつながっているので、2つの力が釣り合うということだ(1m離して釣り合うなら何m離しても釣り合う)。もし左辺の方が小さければ①になるし大きければ③になる。地平面の有無を分ける条件と、静電力と重力が釣り合う(非相対論的な)条件が、なぜ一致するのかは知らない。偶然なのだろうか。

解の性質について話すと長くなりそうである。解の導出はもうできたので、当記事はここまでにしておこう。

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