1.3 方程式を解く
1.2節の最後でできあがった(15)〜(17)式を解く。方程式をもう一度書いておくと、
である。文字がいろいろあってややこしいが、 𝜋 と 𝐺 と 𝜀₀ と 𝑐 は定数、 𝑟 は座標、 𝐴 と 𝐵 と 𝐸 は未知関数(𝑟 の関数)である。未知関数が3つで方程式も3つなので数はちょうどよい。あとは愚直にこれらを解くだけである。
𝐵 について解く
(16)式から(15)式を丸ごと引くと、
のようになる。1.1節の最後に書いたように 𝐴 = 0 や 𝐵 = 0 は解ではない。だから 𝑏 = 0 でもない。したがって、
であり、後で使うためにこれの逆数とその微分を計算すると、
である。
𝐵 を消去する
3つあった式から 𝐵 を消去すれば、 𝐵 を含まない式が2つ出てくるはずだ。
1つ目は、(16)式に(18)・(20)式を代入すると、
となる。あるいは、当たり前だが(15)式に(18)・(20)・(21)式を代入してもこれと同じ式が出てくる。積の微分公式を使って左辺の最初の2項をまとめられることは、シュバルツシルト解を導出したときと同じである。
2つ目は、(17)式に(18)・(21)式を代入すると、
となる。左辺はもともと5個あった項が 𝐵 を消去しただけで1個の項にまとまってしまった。
𝐴 を求める
(23)式と(22)式を丸ごと足すと、
となって 𝐴 が決まる。3行目で積分定数の前の符号をマイナスにしたのは、そうすると後の説明が楽になることを私が知っているからである。初めてこの問題を解くときはもちろんそんなことは知らないから、後になってから「あのときマイナスをつけておけば便利だったな。」と気づくのだ。
𝐵 を求める
(24)式を(19)式に代入すると
である。
これで計量が決まった。(24)・(25)式を(2)式に代入すると計量テンソルは
となる。
𝐸 を求める
(24)式を(22)式に代入すると
である。あるいは、当たり前だが(23)式に(24)式を代入してもこれと同じ式が出てくる。右辺の見た目はごちゃごちゃしているが 𝑟 以外はすべて定数なので単純な関数である。
これで電磁場も決まった。(26)式を(3)式に代入すれば電磁場テンソルは
であり、(10)式に(18)・(26)式を代入すれば
である。
マクスウェル方程式を満たしているか
重力場と電磁場が決まったと言ったが、今は重力場の方程式(アインシュタイン方程式)を解いただけで電磁場の方程式(マクスウェル方程式)のことを考えていなかった。しかし(27)・(28)式がマクスウェル方程式を満たしているかどうかきちんと確認すべきであろう。
その確認は読者への演習問題としておく。結果はきちんと満たされているはずだ。マクスウェル方程式については再度1.4節で取り上げるので、気になる人はそこを見て欲しい。
積分定数 𝑏
積分定数 𝑏 はシュバルツシルト解(外部解)のときと同様の理屈により正であれば何でもよい。これは人間が勝手に張る座標系の張り方で決まるから、 𝑤 軸の目盛り間隔を適切な値にすることにより 𝑏 = 1 としてよい。よってそれを(24)・(26)式に代入すれば
となる。
積分定数 𝑟𝑠
積分定数 𝑟𝑠 もシュバルツシルト解(外部解)のときと同様で、シュバルツシルト半径である。物体の質量を 𝑀 とすれば
である。
積分定数 𝑘
積分定数 𝑘 は電磁場の大きさを特徴づける定数である。 𝑘 が0のときシュバルツシルト解(外部解)と一致する。また、 𝐸 が実数だから 𝑘 ≧ 0 でなければならない。
物体の電荷を 𝑄 とおき、それと 𝑘 との関係を調べよう。 𝐸 を電場だと考えて、 𝑟 が一定( 𝑤 も一定)の2次元球面上で積分形のガウスの法則を適用すれば、
のようになる。しかし 𝐸 が電場の真の値だと安易に考えてはいけない。なぜなら今は時空が曲がっていて座標軸も曲がっているので 𝑤 や 𝑟 の基底の大きさが1ではないから、もしかしたら 𝐸 は 𝑟 方向の物理的な電場の大きさとは違う変な値になっているかもしれないからだ。そうではあるが幸いにも今の解は 𝑟 → ∞ の極限で 𝑔₀₀ → −1 , 𝑔₁₁ → 1 になっていて無限遠ではミンコフスキー時空になっているようなので、無限遠でガウスの法則を適用すれば上のような計算が成り立つだろうということだ。
一般解
(25)・(29)・(30)・(31)・(32)式をまとめると、解は
のようになる。 𝐹𝜇𝜈 はもう面倒だから書かなかったが、 −𝐹𝜇𝜈 に等しくなる。
以上でライスナー・ノルドシュトルム解の導出は終わりである。