第2章で一様・等方な時空が満たすべき重力場の方程式として を導いた。 𝑎 と 𝜀 と 𝑝 は時間座標 𝑤 の関数であり、その他の文字は定数である。また、仮定により 𝑎 は原則として正である(宇宙の始まりと終わりの瞬間に限り0でもよい)。いちおうこれで方程式は完成したが、この形のままでは意味がよくわからないし解きにくいので、式を変形していこう。
第一の方程式(55)式を変形すると、 となる。つまり(55)式の代わりに(58)式を使ってもよいのであり、実際この形はよく使われる。(58)式をフリードマン方程式 (Friedmann equation) と呼ぶ(別に(55)式や(57)式等をそう呼んだって構わないが)。この両辺を 𝑎² 倍した を時間座標 𝑤 で微分すると、 のようになる。
ここで、もし恒等的に (𝑎 が定数)でないならば、その場合に限り両辺を で割って、 という関係が成り立つ。なお(59)式や(60)式は、微分したときに定数 𝑘 の情報が失われているので(55)式や(58)式の代わりとすることはできない(必要条件に過ぎない)。
第一の方程式(55)式が成り立っていれば(57)式が成り立つから、それを使って第二の方程式(56)式を変形すると、 となる。つまり(56)式の代わりに(61)式を使ってもよいのであり、実際この形はよく使われる。(61)式は加速度方程式と呼ばれることがある。
ここで、もし恒等的に (𝑎 が定数)でないならば、その場合に限り(60)式が成り立つからそれを(61)式に代入して、 となる。つまり でない場合は(56)式や(61)式の代わりに(62)式を使ってもよいのであり、実際この形もよく使われる。(62)式はエネルギー保存則の式と呼ばれることがあり、他に「流体方程式」とか「連続方程式」とか「物質保存の式」と呼んでいる人もいる。
ところで、第一の方程式(55)式が成り立っている条件の下で第二の方程式(56)式を変形して出てきた加速度方程式(61)式やエネルギー保存則の(62)式は別の方法で導くこともできる。それはエネルギー運動量保存則の式を使う方法である。
重力場の方程式(27)式にはエネルギー運動量保存則 が含まれている。「含まれている」とは、重力場の方程式の解であれば自動的に(63)式をも満たしている、という意味である。では(63)式からどのような関係が得られるだろうか。
ただし今は混合テンソルを使っているので(63)式を次のように変形しておく。 (64)式は 𝜈 = 0, 1, 2, 3 に対する4個の方程式である。共変微分の定義より、(64)式の左辺は であるから、これの具体的な表式を求めればよい。エネルギー運動量テンソルの表式は第2章で のように決めたのでこれを使う。クリストッフェル記号の0でない成分は第1章の最後の方で(25)式 のように計算してあるからこれを使えばよい。(54)・(25)式を(65)式に代入すると、 となる。上の式変形では、添え字に具体的な数字(0〜3)を代入する段階で、項の値が0でないものだけを残すようにしている。これらを(64)式に代入すると、第0成分は のようになる。第1, 2, 3成分は 0 = 0 となり何もしなくても最初から成り立っている。(66)式の両辺を −1 倍すれば、 となって、エネルギー保存則の(62)式と同じものが得られた。ここまではエネルギー運動量保存則の式を使っただけで、重力場の方程式はまだ使っていない。
前節で(62)式を導いたときは恒等的に (𝑎 が定数)でない場合に限っていたが、当節で今やった計算ではそんな条件は付けていないので、 の場合でもやはり(67)式すなわち(62)式が成り立たなければならないということだ。まあ 𝑎 が定数ならフリードマン方程式(58)式より 𝜀 も定数になるからその場合に(62)式が成り立つのはすぐにわかることではあるが。
ここで重力場の第一の方程式から得られた(59)式を について解いた を(67)式に代入して を消去すれば となる。よって、恒等的に (𝑎 が定数)でない場合は、波括弧内が0になるべきだから加速度方程式(61)式と同じ関係式が得られる。ここまでで重力場の第二の方程式は使っていない。
3.1節・3.2節の話を整理しておこう。FLRW計量に対する重力場の方程式(55)・(56)式を変形して整理すると3個の重要な方程式 が出てくる。(55)・(56)式を満たす解を見つけたいなら、その代わりに上記3式を満たす解を見つければ必要十分というわけである。ただし、もともと方程式は2個しかなかったのであり、独立な条件は2個だけだから、律義に上記3式すべてを解く必要はない。ではどの2式を連立させて解けばよいのだろうか。
解が恒等的に (𝑎 が定数)でない場合、フリードマン方程式と加速度方程式が満たされていれば自動的にエネルギー保存則も満たされるし、フリードマン方程式とエネルギー保存則が満たされていれば自動的に加速度方程式も満たされるのだった。したがって「フリードマン方程式と加速度方程式の2式」または「フリードマン方程式とエネルギー保存則の2式」のどちらかの組み合わせを解けば必要十分である。
解が恒等的に (𝑎 が定数)である場合、フリードマン方程式が満たされていれば自動的にエネルギー保存則も満たされるのだった。そしてそれらとは独立に加速度方程式が存在する。したがって「フリードマン方程式と加速度方程式の2式」を解けば必要十分であるが、「フリードマン方程式とエネルギー保存則の2式」だけを解いたのでは不十分である。
本によっては、(55)・(56)式から成る連立方程式はフリードマン方程式とエネルギー保存則から成る連立方程式と等価である、という意味のことだけが書いてあるものがある。現実の宇宙では 𝑎 が定数でないことがわかっているから定数解は無視していいという思想なのだろう。ただ、いわゆる「アインシュタインの静止宇宙モデル」(𝑎 が定数)のようなものを考えるときはフリードマン方程式の他にきちんと加速度方程式を考慮しなければならず、代わりにエネルギー保存則の方だけ見ていると条件が漏れてしまうので注意が必要である。
さて、未知関数は 𝑎 と 𝜀 と 𝑝 の3個であるから、独立な条件が2個しかなかったら関数の形は決まらない。3個目の条件として、空間を満たしている完全流体の性質(圧力とエネルギー密度の関係)を表す何らかの状態方程式 が存在し、それによってすべての未知関数が定まる。
3個の重要な方程式のそれぞれの意味は以下のようになる。
左辺は の2乗である。 は宇宙の大きさが単位時間あたり何倍増えるかを表す膨張速度(負の場合は収縮を表す。)である。これはハッブルパラメータと呼ばれる量であり、その現在の値はハッブル定数に等しい(この量は習慣的に ㎞ s⁻¹ Mpc⁻¹ の単位で表される)。右辺はエネルギー密度 𝜀 と空間の曲率半径 の−2乗(曲率の符号付き)と宇宙定数 𝛬 との線形結合である。ハッブルパラメータの2乗が右辺の式で決まるということだ。左辺は2乗になっているから、ある解が存在すればそれの時間反転も解である。
左辺は 𝑎 の2階微分を 𝑎 自身で割ったものであるから、膨張加速度のようなものだ。
エネルギー密度 𝜀 や圧力 𝑝 が負になることはないと仮定すれば、もし 𝛬 が0以下ならば必ず となり 𝑎 の解は減速膨張または加速収縮に限られる。定常もしくは加速膨張や減速収縮の解が欲しければ、そのためには少なくとも 𝛬 が正でなければならない。
(62)式はある1点におけるエネルギー運動量保存則を表す(63)式から導くことができた式であるが、このままではまだ意味がわかりにくいので両辺に 𝑎³ を掛けると、 のようになる。左辺第1項は単位共動体積あたり単位時間あたりの内部エネルギーの変化である。左辺第2項は単位共動体積あたり単位時間あたりの体積の変化に圧力をかけたものだから単位共動体積が単位時間あたりに外部にした仕事である。それらの和が0だというのだから、確かにエネルギー保存則である。
以上より、一様・等方な時空が満たすべきフリードマン方程式等とその大まかな意味がわかった。次回以降の記事では、具体的な解の例を導出していこう。
なお、この記事で求めたフリードマン方程式等を他の文献と比べると一部の項だけ 𝑐 の次数が異なっている場合がある。その主な要因は時間微分˙が であるか であるかに起因する違いである。他に、宇宙定数 𝛬 の定義が 𝑐² 倍異なっているために違いが生じている文献もある。複数の文献を参照するときは定義の違いに気を付けなければならない。