第2章 フリードマン方程式
この記事の目的は、一様・等方な時空に対する重力場の方程式を求めることだった。第1章では一様・等方な時空の計量の一般的な形を求めた。それを重力場の方程式(アインシュタイン方程式)に代入したらどうなるかやってみよう。
重力場の方程式
重力場の方程式はいつものように混合テンソルによる方程式
を解くことにする。 𝐺𝜇𝜈 はアインシュタインテンソル、 𝑇𝜇𝜈 はエネルギー運動量テンソル、 𝛿𝜇𝜈 はクロネッカーのデルタ、 𝛬 は宇宙定数、 𝐺 は万有引力定数、 𝑐 は光速である。
クリストッフェル記号
クリストッフェル記号はすでに第1章の最後の方で(25)式
で求めてあるので、これを使えばよい。
この後でリッチテンソルを求める際にクリストッフェル記号の微分が必要になるので計算しておく。ただし
のすべての成分がいるわけではなく、 𝜆 = 𝜌 または 𝜆 = 𝜈 である成分が求まれば十分であるから、それらだけを計算する。(25)式をただ微分するだけなので、結果だけを書くと、0でない成分は以下である。
実は
はこの後で使わないので計算する必要はなかったのだがついでに書いておいた。
リッチテンソル 𝑅𝜇𝜈
リーマンテンソル 𝑅𝜌𝜇𝜆𝜈 およびリッチテンソル 𝑅𝜇𝜈 の定義は
である(ただし符号を逆に定義する流儀もある)。そこで(29)式を(30)式に代入すれば
のようになる。
ではリッチテンソルの各成分の表式を求めよう。(31)式を使って、(25)・(28)式と見比べながら0でない成分を代入していくだけである。この下の式変形では、添え字に具体的な数字(0〜3)を代入する段階で、項の値が0でないものだけを残すようにしている。クリストッフェル記号の縮約 𝛤𝜆𝜇𝜆 を求める公式を知っている人は使いたくなるかもしれないが、今あれを使うとかえって繁雑になってめんどくさいのでやめた方がよいと思う。
まず対角成分は、
のようになる。続いて非対角成分は、
のようにすべて0である。
以上でリッチテンソル 𝑅𝜇𝜈 の表式が求まった。
リッチテンソル 𝑅𝜇𝜈
次に、1個目の添え字を上にあげた 𝑅𝜇𝜈 = 𝑔𝜇𝜌𝑅𝜌𝜈 を計算する。(13)式と(32)〜(41)式を代入すればよい。
まず対角成分は次のようになる。
(44)・(45)式は、 𝑅²₂ や 𝑅³₃ を計算した結果を 𝑅¹₁ と見比べてみたら 𝑅¹₁ に等しいことがわかった、という意味である。
続いて非対角成分であるが、計量テンソル 𝑔𝜇𝜈 もリッチテンソル 𝑅𝜇𝜈 も非対角成分はすべて0なので、 𝑅𝜇𝜈 = 𝑔𝜇𝜌𝑅𝜌𝜈 も非対角成分はすべて0である。
以上でリッチテンソル 𝑅𝜇𝜈 の表式が求まった。
スカラー曲率
スカラー曲率(リッチスカラー) 𝑅 の定義は
であるから、(42)〜(45)式を代入して計算すると次のようになる。
アインシュタインテンソル
アインシュタインテンソル 𝐺𝜇𝜈 の定義は
である。では(42)〜(46)式を代入して各成分の表式を求めよう。
まず対角成分は次のようになる。
続いて非対角成分であるが、リッチテンソル 𝑅𝜇𝜈 もクロネッカーのデルタ 𝛿𝜇𝜈 も非対角成分はすべて0なので、アインシュタインテンソル 𝐺𝜇𝜈 も非対角成分はすべて0である。
方程式の完成
ここまででアインシュタインテンソル 𝐺𝜇𝜈 の各成分の表式が求まったので、それらを(27)式に代入すれば、
のようになる。これらが一様・等方な時空が満たすべき重力場の方程式である。
右辺についてはまだ何の条件も考えていなかったが、(47)〜(49)式からエネルギー運動量テンソル 𝑇𝜇𝜈 に条件が課されることがわかる。その条件とは非対角成分が0であることと、
である。それと左辺は時間座標 𝑤 の関数であるから、右辺の 𝑇𝜇𝜈 も 𝑤 の関数である。したがって
のような形になっているべきである。 𝑈(𝑤) および 𝑉(𝑤) は今のところ未定の 𝑤 の関数である。
ところで話は変わるが、一般に完全流体のエネルギー運動量テンソルは
と表されるのだった(ただしどれかの項の符号が逆になる流儀もある)。ここで 𝑢𝜇 は流体要素の4元速度、 𝜌 は質量密度、 𝑝 は圧力である。 𝜌 と 𝑝 は流体要素が瞬間的に静止する局所慣性系で測った値であるからスカラーである。(51)式の片方の添え字をおろして混合テンソルにすれば
のようになる。もし今考えている座標系で流体要素が静止していれば、 𝑢¹ = 𝑢² = 𝑢³ = 𝑢₁ = 𝑢₂ = 𝑢₃ = 0, 𝑢⁰ = 𝑐, 𝑢₀ = −𝑐 であるからこれを(52)式に代入すると、
となる。ここで、 𝜌 と 𝑝 が 𝑤 のみの関数になっていることにすれば(53)式は(50)式の条件に合致している。空間は一様・等方だから 𝜌 と 𝑝 が空間座標に依存しないことは理にかなっている。よって、静止している完全流体のエネルギー運動量テンソルである(53)式を、(47)〜(49)式の 𝑇𝜇𝜈 として採用することにする。そういえば第1章の最後で、この座標系で静止している粒子の世界線は測地線であることを確認したのだった。そのことも流体要素が静止し続けることと整合している。「静止している完全流体」以外で(50)式の形になることはあり得ないのかどうか知らないが、そういう話が載っている本を見たことがないので、たぶん気にしなくてよいのだろう。
そういうわけで(53)式を(47)〜(49)式に代入すると、
となり、非対角成分は 0 = 0 となって消える。 𝑎 と 𝜌 と 𝑝 は 𝑤 の関数であり、その他の文字は定数である。
このようにして得られた上記の方程式を「フリードマン方程式」と呼ぶ。細かいことを言うと、(54)・(55)式の2個1組の方程式をフリードマン方程式と呼んでいる人と、2個の式のうち(54)式だけをフリードマン方程式と呼んでいる人がいて、見解は統一されていないようだ。英語では単数形“Friedmann equation”なのか複数形“Friedmann equations”なのかもよくわからない。それと、(54)・(55)式の組み合わせでなく、どちらかの式の代わりに「(54)式×⅓−(55)式」みたいにして一階微分を消した式を使っている人もいる。いろいろな流儀があってややこしいが、いずれにしても独立な式は2個である。
(54)・(55)式を他の文献と比べると一部の項だけ 𝑐 の次数が異なっている場合があるが、それは時間微分˙が
であるか
であるかに起因する違いである。