1.3 方程式を解く
1.2節の最後でできあがった(11)〜(13)式を解く。方程式をもう一度書いておくと、
である。文字がいろいろあってややこしいが、 𝜅 と 𝑐 と 𝜌𝑐 は定数、 𝑟 は座標、 𝐴 と 𝐵 と 𝑝 は未知関数(𝑟 の関数)である。外部解のときは未知関数は計量だけだったが、内部解では圧力も未知関数になるのだ。では上から順番に見ていこう。
第(0, 0)成分
(11)式には 𝐴 や 𝑝 が含まれておらず 𝐵 だけの式なので簡単である。
となる。左辺の式変形は外部解のときとまったく同じであり、右辺だけが異なる。
ここで積分定数 𝑟𝑎 は実は0である。それは次のようにしてわかる。まず 𝑟 → 0 のときに 𝐵 がどうなるかを考えると、仮に 𝑟𝑎 = 0 ならば(14)式より
であり、 𝑟𝑎 ≠ 0 ならば(15)式より
である。ここで 𝑤 = 一定 , 𝑟 = 𝜀 ,
の円を考えると、(5)式よりこの円の1周の長さは 2𝜋𝜀 になる。時空のどの世界点の近傍にも局所慣性系が存在するから、 𝜀 が十分小さいときは、この円は 𝑟 = 0 の近傍の局所慣性系(平坦な時空)で考えてよいので半径は円周の
倍すなわち 𝜀 になる。それは
になっているということだから、 𝑟𝑎 = 0 であることがわかる。したがってそれを(14)式に代入すると、
となって 𝐵 が決まる。
ところで外部解ではこの段階で出てくる積分定数は「シュバルツシルト半径」として最後まで残るのだった。ではなぜ内部解のときだけ0になるのかというと、 𝑟 = 0 で変なことが起きないようにする条件を課したからである。外部解を導出したときは天体の外部だけで成り立てばよいと考えていたので 𝑟 = 0 の近傍のことはどうでもよかったのだ(ブラックホールの場合は外部解の範囲が 𝑟 → 0 まで及んでしまって特異点になるのであるが)。
第(1, 1)成分
(12)式より、
となる。現段階ではこれ以上は計算できないので、とりあえずこのままにして次の式に進む。
第(2, 2), (3, 3)成分
(17)式と(16)式を使って(13)式から 𝐴 と 𝐵 を消去し、 𝑝 だけの式にすることを考える。そのために必要となる 𝐴 や 𝐵 に関する微分などを先に求めておこう。 𝐴 については(17)式を微分すると、
のようになる。 𝐵 については(16)式より
であり、(19)式を微分すると、
のようになる。
さて、(13)式は
のように変形できる。(22)式に(17)・(18)・(20)・(21)式を代入すればよいのであるが、一気にやると式がとても長くなって大変であるから、4つの項ごとに別々に計算しよう。その際、 𝑝 の次数に応じて項を整理しておくとよい。
これらを(22)式に代入すると、
である。これを(13)式に代入すれば、
のように簡単な形になる。これが 𝑝 に関する微分方程式である。(23)式を導く方法は他にもあって、それは1.4節で説明する。さて、 3𝑝 + 𝑐²𝜌𝑐 や 𝑝 + 𝑐²𝜌𝑐 は0でないから(23)式の両辺をこれらの積で割って、
のようになる。ここで(24)式の絶対値の中身の符号を考えてみよう。左辺の2個の絶対値の中身はいつでも正である。右辺の絶対値の中身は天体の中心 𝑟 = 0 では負であり、 𝑟 に対して単調に増加して
で0になり、それより大きな 𝑟 では正になる。ところで天体の内部では左辺は0になりようがないのだから、右辺が0になってしまったら解なしである。よって、方程式が解を持つためには、天体の大きさに関して
が成り立っていなければならない。そしてこれが成り立っている限り(24)式の右辺の絶対値の中身は負である。よって(24)式の絶対値記号をはずすと
となる。ここで境界条件 𝑟 = 𝑟𝑐 のとき 𝑝(𝑟𝑐) = 0 を使うと、
のように積分定数の値が決まるので、これを(26)式に代入すれば
となって 𝑝 が決まる。
さて、(27)式の右辺の分子は 𝑟 に対して単調減少であり、天体の内部で正(ただし天体の表面では0)である。一方、分母は 𝑟 に対して単調増加であり、天体の表面で正であるから、 𝑟 = 𝑟𝑐 から 𝑟 を減らしていったら場合によっては中心に着くまでに分母が0になってしまうかもしれない。そんなことになったらその場所で圧力 𝑝 が発散してしまって困る。困らないためには天体の内部のすべての場所(0 ≦ 𝑟 ≦ 𝑟𝑐)において、分母が正すなわち
が成り立ってくれればよい。この左辺は0から 𝑟𝑐² までのすべての値を取り得るから、その範囲でいつでも成り立つためには右辺が負になっている必要がある。そうなるための条件を求めると
となる。(27)式がまともな解になるのは(28)式が満たされる場合に限るということだ。これは先ほどの(25)式より厳しい条件である。
[ Yahoo!知恵袋でわかりにくいとのご指摘がありましたのでこの部分の説明を修正しました。 ]
再び第(1, 1)成分
後回しになっていた(17)式に戻ろう。(27)式を(17)式に代入すると、
となって 𝐴 が決まる。もし6行目から7行目への変形の積分を思いつかなければ、
とおいて 𝑥 で置換積分すれば計算できる。
内部解の一般解
(29)・(16)・(27)・(28)式をまとめると、解は
である。定数
を代入して少々の変形をすれば、
のようになる。
もしも天体の外部に興味がなく、内部のことだけがわかればよいのであれば、必要なものはこれですべて求まった。積分定数 𝑏 は外部解のときと同様の理屈により正であれば何でもよい。キリがいい値でもいいし、天体の内部のどこか重要な場所における固有時が座標時
に一致するように 𝑏 を選んでも構わない。
外部解と整合的な解が欲しければ、内部解と外部解を同一の座標系で表して天体の表面で計量が連続になるように任意定数を選べばよい。その計算は第2章で行う。