第1章で求めた内部解の一般解は である(𝑏 は積分定数)。一方、外部解は、「シュバルツシルト解(外部解)の導出」の記事の2.3節の最後の方で求めたように、 であった(𝑟𝑠 は積分定数)。両者を同一の座標系で扱うことを考えてみる。そのためには天体の表面 𝑟 = 𝑟𝑐 において両者の解が一致するように定数を選べばよい。すなわち である。(40)式より、 という関係が求まる。このため 𝜌𝑐 と 𝑟𝑐 と 𝑟𝑠 は独立ではなく、2個を決めれば残りの1個は自動的に決まることになる。そして(39)式は である。ここで 𝑟𝑠 = 𝑟𝑐 だとすれば(41)式より となるがこれは(32)式の条件を満たさないので不適である。したがって、 となって積分定数 𝑏 の値が定まる。
以上により、(41)・(42)式を(30)〜(32)式に代入すれば外部解と接続した内部解は という形で表される。(44)式の中に1か所だけ 𝜌𝑐 が残っているのが気に入らなければ(41)式を使って 𝜌𝑐 を消去してもよい(が式は少々繁雑になる)。ここで 𝑟𝑠 は(41)式より である。これによって外部解の積分定数の値も完全に決まった。以上でシュバルツシルト解(外部解・内部解)を導出する作業はすべて完了した。
この節の内容は「解の導出」とは関係ないが、解の形からすぐにわかる重要なことなのでついでにここに書いておく。
(46)式の 𝑟𝑠 はもともとは外部解を導出したときに出てきた積分定数で、「シュバルツシルト半径」である。それは遠方でニュートン力学が成り立っていることを使うと と書けるのだった。 𝑀 はニュートン力学で天体の「質量」と呼んでいたものであるが、相対論的にどう定義されるかを考えると、(47)式と(46)式を等置すれば であることがわかる。「半径 𝑟𝑐 の球の体積に密度 𝜌𝑐 を掛けたら質量になるのは当たり前ではないか。」と思った人がいるかもしれないがそうではない。平坦なユークリッド空間なら は球の体積だが、今考えているシュバルツシルト解のような曲がった時空では という量は体積とは違う何か別のものだ。
ではこの天体の本当の体積(固有体積)はいくらなのか、計算してみよう。それは 𝑥⁰ = 𝑤 = 一定 の断面で切り取ってきた3次元体積であるから、次のようにして求められる。 det は行列式である。 ここで とおくと であるから、(49)式の 𝑟 に関する積分を 𝑥 で置換積分すればその値は、 である。そして(49)式の 𝜃 に関する積分の値が 2 になり 𝜑 に関する積分の値が 2𝜋 になることは見ればすぐにわかるだろう。これらを(49)式に代入すれば天体の固有体積は になる。この大きさの空間が一様密度 𝜌𝑐 の流体で満たされているのだから、流体要素が瞬間的に静止する局所慣性系で測った質量を全部足し合わせた合計の質量 𝑀𝑃 は である。(50)式と(48)式の比は である。例えば 𝑟𝑐 = 10𝑟𝑠 なら であり、 𝑟𝑐 = 3𝑟𝑠 なら である。参考のため 𝑟𝑠 ≪ 𝑟𝑐 のときは(51)式を級数展開すると のように近似できる(近似だけが得られればよい場合は積分する前に(49)式の1個目の積分の被積分関数を級数展開する方が楽である)。これは1より大きい。
では 𝑀 の意味は何かといえば、詳しい説明は省くが、これは天体とそれが作る重力場の総エネルギー(を 𝑐² で割ったもの)を無限遠で測ったものということになっている。天体の外部の重力場の形は(47)式を通して 𝑀 によって特徴づけられるので 𝑀 を「重力質量」と呼ぶことがある。
また、 𝑀𝑃 には圧力に起因するエネルギー(を 𝑐² で割ったもの)も含まれているので、これは一般的に天体を構成する流体要素の静止質量の総和より大きい。
(45)式の条件があるので、 𝑟𝑐 が 以下になるような定常状態は存在しない。この条件は圧力が発散しないための条件から出てきたものなので、これが満たされないときは、天体を平衡状態に保つために無限大の圧力が必要になるがそんな圧力は実現できないから崩壊してブラックホールになるしかない。
シュバルツシルト半径ぎりぎりで崩壊を免れている(球対称・定常・一様密度の)天体というものは存在しないのだ。