シュバルツシルト解(外部解)のリーマンテンソルを求める。
結果だけを知りたい人のために最初に答えを書いておく。今から算出するリーマンテンソルの1階反変3階共変テンソル 𝑅𝜅𝜆𝜇𝜈 のうち0でない成分を表1に、4階共変テンソル 𝑅𝜅𝜆𝜇𝜈 のうち0でない成分を表2に示す。
座標変数 𝑥⁰ = 𝑤 (= 𝑐𝑡), 𝑥¹ = 𝑟, 𝑥² = 𝜃, 𝑥³ = 𝜑 は第1章と同じである。また、 𝑟𝑠 はシュバルツシルト半径であり、原点を中心とする物体の質量 𝑀 で表せば (ただし 𝐺 は万有引力定数、 𝑐 は光速)である。
この節で述べることはシュバルツシルト解に限らずいつでも成り立つ一般的な話である。
リーマンテンソルの各成分を求めるには、単純に公式にクリストッフェル記号や計量を代入すればよいが、どの成分を先に求めるかによっていくつかのやり方が考えられる。
一般相対性理論のどの教科書にも載っているリーマンテンソルの公式は である(ただし符号を逆に定義する流儀もある)。なぜこうなるのかを知りたければ教科書を見て欲しい。
原理的にはこの公式があれば十分で、これで(4次元ならば)256個のすべての成分を算出できる。しかし添え字の値を変えながら256通りもこの計算するのは面倒である。もっと楽に計算できる方法はないのだろうか。
リーマンテンソルにはいろいろな対称性があるので独立な成分は(4次元ならば)20個しかない(その20個が具体的にどの成分であるかは後で述べる)。4階共変テンソルを使ってその対称性を書けば である。また、これら(12)〜(14)式の関係が成り立てば自動的に も成り立つ。その証明は簡単であるが一応書いておくと、 である。
なお余談であるが、(12)・(13)・(15)式では4つの添え字が前2つの組と後2つの組に分かれるような雰囲気であるのに対して、(14)式だけは1つ目の添え字だけが特別扱いで固定され残り3つが対等になっているように見えるのが気持ち悪いと感じるかもしれない。しかし(14)式に(12)・(13)・(15)式を適用すれば同様に が成り立つこともすぐにわかる。このように、どの添え字を固定しても同じような関係式が成り立つのであり、1つ目の添え字が特別だというわけではない。
以上の(12)〜(15)式の関係があるので、 𝑅𝜅𝜆𝜇𝜈 は独立な20成分を公式に基づいて算出すれば残りは単純な加減算で求められるし、計算するまでもなくいつでも0である成分も多い。一方、(11)式は 𝑅𝜅𝜆𝜇𝜈 を求める公式である。では 𝑅𝜅𝜆𝜇𝜈 はどうやって求めるのかといえば、いつものように計量テンソルを使って添え字をおろすだけである。
見てわかるように(16)式は 𝜇 と 𝜈 を入れ替えれば −1 倍になるので、(12)式の関係は自明である。よく見ると、 𝜆 と 𝜇 と 𝜈 をサイクリックに入れ替えると隣の項と打ち消し合うことから、(14)式の関係もわかる。しかし残りの(13)・(15)式の関係が成り立っているかどうかはすぐにはわからない。別にそんなものはわからなくてもリーマンテンソルの算出はできるが、対称性の関係がすぐにわかるような表式はないのだろうか。もちろん、ある。それはこうだ。
(17)式を見れば、 𝜇 と 𝜈 を入れ替えれば−1 倍になるし、 𝜅 と 𝜆 を入れ替れば −1 倍になるし、 𝜅 と 𝜇 を入れ替えると同時に 𝜆 と 𝜈 を入れ替えれば何も変わらないことがわかるので、(12)・(13)・(15)式の対称性がわかる。(14)式の対称性は暗算ではわからないかもしれないが(14)式の左辺に(17)式を代入すれば技巧的な変形をすることなく0になることがわかる。
ここで(16)式と(17)式が本当に同じものであるかどうかを確認しておく。まず(16)式の右辺の括弧を展開すると である。(18)式の右辺の各項を計算すると、第1項は、 であり、第3項は、 であるから、(19)式と(20)式を足せば、 である。続いて(18)式の右辺の第2項と第4項も変形したいが、これらはそれぞれ第1項と第3項の 𝜇 と 𝜈 を入れ替えて −1 倍したものに等しいから、まったく同様に、 となる。したがって、(21)式と(22)式を足せば、 となり、(17)式と同じものが導かれた。これで(16)式と(17)式が同じものであることがわかった。
4次元の場合、リーマンテンソルには256個の成分がある。しかし4階共変テンソル 𝑅𝜅𝜆𝜇𝜈 を算出する場合、上で述べた対称性があるため(16)式または(17)式等による計算は20個の成分について行えば十分である。その20個の結果を使えば残りの成分はより簡単な手続きで求められる。
まず、 𝜇 = 𝜈 である成分は(12)式の関係により、また 𝜅 = 𝜆 である成分は(13)式の関係により、いずれも計算するまでもなくいつでも0である。256個のうち112個の成分がこれに該当する。したがって0でない可能性があるのは残りの144成分(𝜇 ≠ 𝜈 かつ 𝜅 ≠ 𝜆 である成分)である。それらは(12)・(13)・(15)式の関係に基づいて表3のように21個のグループに分けられる。
番号 | 成分 | 注釈 |
---|---|---|
1 | 𝑅₀₁₂₃ = 𝑅₂₃₀₁ = 𝑅₁₀₃₂ = 𝑅₃₂₁₀ = −𝑅₀₁₃₂ = −𝑅₂₃₁₀ = −𝑅₁₀₂₃ = −𝑅₃₂₀₁ | 3個のうち どれか2個 が独立 |
2 | 𝑅₀₂₃₁ = 𝑅₃₁₀₂ = 𝑅₂₀₁₃ = 𝑅₁₃₂₀ = −𝑅₀₂₁₃ = −𝑅₃₁₂₀ = −𝑅₂₀₃₁ = −𝑅₁₃₀₂ | |
3 | 𝑅₀₃₁₂ = 𝑅₁₂₀₃ = 𝑅₃₀₂₁ = 𝑅₂₁₃₀ = −𝑅₀₃₂₁ = −𝑅₁₂₃₀ = −𝑅₃₀₁₂ = −𝑅₂₁₀₃ | |
4 | 𝑅₀₁₀₂ = 𝑅₀₂₀₁ = 𝑅₁₀₂₀ = 𝑅₂₀₁₀ = −𝑅₀₁₂₀ = −𝑅₀₂₁₀ = −𝑅₁₀₀₂ = −𝑅₂₀₀₁ | |
5 | 𝑅₀₁₀₃ = 𝑅₀₃₀₁ = 𝑅₁₀₃₀ = 𝑅₃₀₁₀ = −𝑅₀₁₃₀ = −𝑅₀₃₁₀ = −𝑅₁₀₀₃ = −𝑅₃₀₀₁ | |
6 | 𝑅₀₂₀₃ = 𝑅₀₃₀₂ = 𝑅₂₀₃₀ = 𝑅₃₀₂₀ = −𝑅₀₂₃₀ = −𝑅₀₃₂₀ = −𝑅₂₀₀₃ = −𝑅₃₀₀₂ | |
7 | 𝑅₁₀₁₂ = 𝑅₁₂₁₀ = 𝑅₀₁₂₁ = 𝑅₂₁₀₁ = −𝑅₁₀₂₁ = −𝑅₁₂₀₁ = −𝑅₀₁₁₂ = −𝑅₂₁₁₀ | |
8 | 𝑅₁₀₁₃ = 𝑅₁₃₁₀ = 𝑅₀₁₃₁ = 𝑅₃₁₀₁ = −𝑅₁₀₃₁ = −𝑅₁₃₀₁ = −𝑅₀₁₁₃ = −𝑅₃₁₁₀ | |
9 | 𝑅₁₂₁₃ = 𝑅₁₃₁₂ = 𝑅₂₁₃₁ = 𝑅₃₁₂₁ = −𝑅₁₂₃₁ = −𝑅₁₃₂₁ = −𝑅₂₁₁₃ = −𝑅₃₁₁₂ | |
10 | 𝑅₂₀₂₁ = 𝑅₂₁₂₀ = 𝑅₀₂₁₂ = 𝑅₁₂₀₂ = −𝑅₂₀₁₂ = −𝑅₂₁₀₂ = −𝑅₀₂₂₁ = −𝑅₁₂₂₀ | |
11 | 𝑅₂₀₂₃ = 𝑅₂₃₂₀ = 𝑅₀₂₃₂ = 𝑅₃₂₀₂ = −𝑅₂₀₃₂ = −𝑅₂₃₀₂ = −𝑅₀₂₂₃ = −𝑅₃₂₂₀ | |
12 | 𝑅₂₁₂₃ = 𝑅₂₃₂₁ = 𝑅₁₂₃₂ = 𝑅₃₂₁₂ = −𝑅₂₁₃₂ = −𝑅₂₃₁₂ = −𝑅₁₂₂₃ = −𝑅₃₂₂₁ | |
13 | 𝑅₃₀₃₁ = 𝑅₃₁₃₀ = 𝑅₀₃₁₃ = 𝑅₁₃₀₃ = −𝑅₃₀₁₃ = −𝑅₃₁₀₃ = −𝑅₀₃₃₁ = −𝑅₁₃₃₀ | |
14 | 𝑅₃₀₃₂ = 𝑅₃₂₃₀ = 𝑅₀₃₂₃ = 𝑅₂₃₀₃ = −𝑅₃₀₂₃ = −𝑅₃₂₀₃ = −𝑅₀₃₃₂ = −𝑅₂₃₃₀ | |
15 | 𝑅₃₁₃₂ = 𝑅₃₂₃₁ = 𝑅₁₃₂₃ = 𝑅₂₃₁₃ = −𝑅₃₁₂₃ = −𝑅₃₂₁₃ = −𝑅₁₃₃₂ = −𝑅₂₃₃₁ | |
16 | 𝑅₀₁₀₁ = 𝑅₁₀₁₀ = −𝑅₀₁₁₀ = −𝑅₁₀₀₁ | |
17 | 𝑅₀₂₀₂ = 𝑅₂₀₂₀ = −𝑅₀₂₂₀ = −𝑅₂₀₀₂ | |
18 | 𝑅₀₃₀₃ = 𝑅₃₀₃₀ = −𝑅₀₃₃₀ = −𝑅₃₀₀₃ | |
19 | 𝑅₁₂₁₂ = 𝑅₂₁₂₁ = −𝑅₁₂₂₁ = −𝑅₂₁₁₂ | |
20 | 𝑅₁₃₁₃ = 𝑅₃₁₃₁ = −𝑅₁₃₃₁ = −𝑅₃₁₁₃ | |
21 | 𝑅₂₃₂₃ = 𝑅₃₂₃₂ = −𝑅₂₃₃₂ = −𝑅₃₂₂₃ |
1番〜3番のグループは4つの添え字がすべて異なるものである。各グループの先頭に書いてある成分に対して(14)式を適用すると、3個のうち2個が決まれば残り1個が自動的に決まる。つまり1番〜3番の中で独立なグループは2個である
4番〜15番のグループは4つの添え字に入る数字が3種類である。16番〜21番のグループは4つの添え字に入る数字が2種類である。いずれも、(14)式を適用しても同じグループ内の関係が再び現れるだけで新たな関係は増えない。
このようにして21グループのうち1番〜3番のどれか1個を除いた20グループからそれぞれ1成分ずつを選んで公式に当てはめて計算すれば、あとは簡単な手続きで残りのすべての成分がわかる。
ここまで、この節ではシュバルツシルト解に限らずいつでも一般的に使える公式について述べた。次節以降では具体的にシュバルツシルト解のリーマンテンソルを算出する。