2.2 4階共変テンソル 𝑅𝜅𝜆𝜇𝜈 の算出
この節では、公式に基づいてシュバルツシルト解のリーマンテンソルの4階共変テンソル 𝑅𝜅𝜆𝜇𝜈 を算出する。
もしすでに1階反変3階共変テンソル 𝑅𝜅𝜆𝜇𝜈 を算出してあるのなら、それに計量をかけて縮約すれば 𝑅𝜅𝜆𝜇𝜈 が求まるので、わざわざリーマンテンソルの公式を使う必要はない。ここではまだ 𝑅𝜅𝜆𝜇𝜈 を算出していない前提で 𝑅𝜅𝜆𝜇𝜈 を求める。 𝑅𝜅𝜆𝜇𝜈 を先に求める計算は次節で行う。
𝑅𝜅𝜆𝜇𝜈 を求める公式は(16)式や(17)式があり、どれが楽であるかは場合によって異なると思うが、(16)式を使うと式変形が次節とほとんど同じになってしまってあまり書く意味がないのでここでは(17)式を使う。ただし第2項を括弧でくくったままだとこの先の説明が面倒であるから展開して、
のように変形しておく。この公式には計量テンソルとその2階偏微分、およびクリストッフェル記号が含まれている。計量テンソルは(1)式のとおり、クリストッフェル記号は第1章で算出した。しかし計量テンソルの2階偏微分はまだ出てきていないので、0でない成分をここで先にすべて求めておく。1階偏微分は(4)〜(8)式で算出してあるので、それをさらに1階偏微分すればよい。この計算は簡単なので結果だけ書いておくと、
である。計量テンソルの2階偏微分は100個の独立成分があるが今は0でないのはこの6個だけである。(28)式や(29)式は sin 2𝜃 や cos 2𝜃 を使ってシンプルに書き換えたくなるかもしれないが、それをしてもどうせこの後の計算で元に戻さなければならないので、このままにしておくのがよい。実は(25)式はこの後で使わないので計算する必要はないのだがついでに書いておいた。
準備ができたので、これらを使って2.1.2節の20個の独立成分を計算する。値が同じか符号だけが異なるものをいちいち並べて書くのは冗長であるから、ここでは表3の各グループの先頭にある成分のみを書くことにする。
2.2.1 添え字の数字が4種類のもの
𝑅𝜅𝜆𝜇𝜈 の添え字に入る数字が4種類、つまりすべて異なる場合を考える。これは表3の1番〜3番のグループである。
この場合、いきなり(23)式に代入して計算を始めるのは損である。計量が対角行列になっているときはこれらはすべて0になるのである。その理屈はこうだ。
(23)式の第1項の括弧内の計量はどれも2つの添え字が異なるので、今はすべて0になる。第2項については、1.1.2節でやったように計量が対角行列ならば3つの添え字がすべて異なるクリストッフェル記号は0であるから、第2項
が0以外の値になり得るのは、⑴ 𝜎 = 𝜌, ⑵ 𝜎 = 𝜆 または 𝜎 = 𝜇, ⑶ 𝜌 = 𝜅 または 𝜌 = 𝜈 の3つが同時に成り立つときだけである。しかし今は 𝜅, 𝜆, 𝜇, 𝜈 のすべてが異なるから 𝜎 と 𝜌 をどのように選んでも同時に⑴〜⑶は成り立たない。したがって第2項は0になる。第3項も同様に0になる。
よって、
2.2.2 添え字の数字が3種類のもの
𝑅𝜅𝜆𝜇𝜈 の添え字に入る数字が3種類、つまり1組だけ同じ数字がある場合を考える。これは表3の4番〜15番のグループである。
では(23)式に代入してみよう。まず1組の同じ数字が「0」であるものから片づけることにする。その中の1つは、
のように計算される。最初なので2番目の等号について詳しく説明しよう。
1行目の右辺の第1項の括弧内に計量テンソルの2階偏微分が4つある。これらは(24)〜(29)式の中に同じものがあるかどうかを探し、あればその値を採用し、なければ0とする。今は4つともないので0である。あるいは、今考えているシュバルツシルト解の計量テンソルは対角行列であるから、被微分関数である計量テンソルの2つの添え字が異なっていればその項は0であることがすぐにわかる。
第2項
は 𝜎 と 𝜌 についての縮約でありそれぞれに 0〜3 を代入して和を取ったものであるから実体は16個の項である。クリストッフェル記号の各成分の値は第1章で求めたのでそれを参照すればよい。ところが
の部分に着目すると、 𝜌 の値が 0〜3 のどれであっても
である。したがって
は 𝜎 と 𝜌 が何であろうと0であるから第2項全体は0である。
第3項
は第2項と同様に実体は16個の項である。ここで
の部分に着目すると、これが0でないのは 𝜎 = 2 のとき(𝛤²₁₂)だけである。また、
の部分に着目すると、これが0でないのは 𝜌 = 1 のとき(𝛤¹₀₀)だけである。一方で、
の部分に着目すると、これが0でないのは 𝜎 = 𝜌 のときだけであるから 𝜎 = 2, 𝜌 = 1 のときは 𝑔₂₁ = 0 である。したがって
は 𝜎 と 𝜌 が何であろうと0であるから第3項全体は0である。
このような考察の結果、2行目は0ばかりになったのである。
残りの成分は同様に、
のようになる。結果だけでなく途中の計算式の項もすべて0になってしまった。続いて1組の同じ数字が「1」や「2」であるものも計算すると、
のようになる。やはりすべて0である。0しか出てこないのだろうか。最後に1組の同じ数字が「3」であるものも計算すると、
のようになる。いちばん最後になってようやく計算過程で0でない項が現れた。しかし他の項と打ち消しあって最終的には結局0である。
2.2.3 添え字の数字が2種類のもの
𝑅𝜅𝜆𝜇𝜈 の添え字に入る数字が2種類、つまり同じ数字の組が2組ある場合を考える。これは表3の16番〜21番のグループである。
(23)式に代入すると、
のようになる。このグループはいずれも0でない値になった。
以上のような計算により表2のとおり 𝑅𝜅𝜆𝜇𝜈 のすべての成分が求まった。