2.2.2 空間の曲率が負の場合
表1で宇宙定数 𝛬 が正の場合の解は④〜⑥である。その中で空間の曲率が負である④の解
をここでは考える。これは前のページの⑤と同じく複号が正なら加速膨張、負なら減速収縮である。ここで動径座標に関して
という座標変換をする。このとき逆変換は
であり、その微分は
のようになる。これらを2乗すれば
である。(41)式を変形し(45)・(46)式を代入して座標変換後の線素の式を計算すると、
となる。これは計量の非対角成分である d𝑤d𝜌 の項があってわかりにくいので、計量が対角になるようにさらなる座標変換を考える。動径座標はもういじりたくないので、時間座標を座標変換することで対角計量を目指そう。新しい時間座標を 𝑣 として、今のところ未知のその変換と逆変換を
のように書く。すると、
であるから、これらを(47)式に代入すると
となる。ここで d𝑣d𝜌 の係数を0にすればよいのだが、
では困る(まともな座標変換にならない)から、
を満たすような座標変換をすればよい。下から3・2行目の左辺のlnの引数に絶対値を付けていない理由は、coshはいつでも正だからである。ここで表記の簡略化のために
と置く。後で使うために場合分けをして 𝐴(𝜌) を 𝜌 で微分すると、
である。このとき(49)式より
と書ける。coshは偶関数だからその引数を取り出すと複号が現れて面倒であるが、ここでは 𝑤 と 𝑣 の符号が同じになるように変換することと定義しておく。ところで(40)式(スケール因子)に複号がついているが、それが正のときは 𝑤 ≧ 0 、負のときは 𝑤 ≦ 0 の範囲でしか解が意味を持たないのだった。したがって(40)〜(44)式の複号と(53)式の複号は同順であると考えてよい。
𝐵(𝑣) は任意の正の関数であって具体的な形が未定であるが、それは後で決めることにしてとりあえずこのまま計算を進める。ここからは 𝐴 や 𝐵 の引数を表す (𝜌) や (𝑣) は省略する。(52)式より
であり、(53)式より
である。ただしドット ˙ は座標 𝑣 による微分 を表し、プライム ′ は座標 𝜌 による微分 を表す。(52)・(54)〜(57)式を(48)式に代入して座標変換後の線素の式を計算したいが、(48)式はかなり長くなっているので一気に代入すると大変である。そこで計量の成分ごとに計算しよう。
(48)式の d𝑣² の係数は
である。ここに(50)式を代入すると、 0 ≦ 𝜌 < 𝐿 の領域では
となり、 𝐿 < 𝜌 の領域では
となる。まとめると
のようになる。
(48)式の d𝑣d𝜌 の係数は、それが0になるように 𝑣 を決めたのだから当然0である。
(48)式の d𝜌² の係数は
である。ここに(50)・(51)式を代入すると、 0 ≦ 𝜌 < 𝐿 の領域では
となり、 𝐿 < 𝜌 の領域では
となる。したがってどちらの領域でも
のようになる。
これら以外の計量の成分は座標変換しても変わらない。以上により線素の式は
となる。あとは 𝐵(𝑣) の形を好きなように決めればよいのだが、ここで仮に 𝑔₀₀ が 𝑣 を含まなければ静的な計量にすることができて良さそうである。そのためには
とか
という微分方程式を解けばよい(右辺は正の定数なら何でもよいが、1にしておくのが楽である)。これらは両辺の平方根を 𝑣 で積分するだけで解けるので計算過程を省略していきなり答えを書くと、
である。下側の式についている複号はこのページで今までに出てきた複号と同順としておく。(59)式を(58)式に代入すれば
となる。この計量は⑤の解(平坦な空間のFLRW計量)を座標変換した(36)式と同じであり、 𝜌 < 𝐿 において静的である。曲率が負の空間が加速膨張/減速収縮していると思っていた④の解は、ドジッター時空と同じものだったのだ。
ここでは2段階で座標変換をしたが、最初の座標系と最後の座標系が結局どういう関係になっているのかを求めておこう。
0 ≦ 𝜌 < 𝐿 の領域では、(50)・(59)式を(53)・(52)式に代入すると、
であるから、座標変換は
であり、逆変換は
である。
𝐿 < 𝜌 の領域では、(50)・(59)式を(53)・(52)式に代入すると、
であるから、座標変換は
であり、逆変換は
である。
場合分けと式変形が長くなって全体が見づらいので結果だけをもう一度書いておくと、
である。まだ 𝜌 = 𝐿 の領域が残っているが、これはどうしようもない。その領域は元の座標系で考えれば(42)・(43)式より
ということになるが、この関係を満たす 𝑤 と 𝑟 を(67)式に代入すると新しい座標系では 𝑣 → ±∞ となって無限の未来/過去に飛ばされてしまう。逆に新しい座標系における 𝜌 = 𝐿 を元の座標系に変換するために(69)・(70)式に代入して無理やり計算すると 𝑤 と 𝑟 がともに虚数になってしまう。だから 𝜌 = 𝐿 となる線上(4次元時空内で考えれば3次元超曲面上)の領域に限りこの座標変換は諦めることにする。
以上の関係を図示したものが図5・6である。茶色で描かれた座標系(𝜌 < 𝐿 において静的; (60)式)は時空のより広い領域を覆うことができるが、青色で描かれた座標系(𝑘 < 0 のFLRW計量; (41)式)は、原点を頂点とする光円錐(複号が正なら未来光円錐、負なら過去光円錐)の内部だけしか言い表せないのである。 𝑤 = 0 はビッグバン/ビッグクランチかと思ったらただの座標特異点なのであった。