2.3 宇宙定数が負の場合
表1で宇宙定数 𝛬 が負の場合の解は①のみである。 𝛬 = 0 や 𝛬 > 0 の場合と同様の考え方で座標変換をして、一定範囲内の空間の曲率が時間とともにどのように変化するか見てみよう。①の解
は空間の曲率が負であり減速膨張から加速収縮に転じる有限の寿命をもつ時空である。ここで動径座標に関して
という座標変換をする。このとき逆変換は
であり、その微分は
のようになる。これらを2乗すれば
である。(102)式を変形し(105)・(106)式を代入して座標変換後の線素の式を計算すると、
となる。これは計量の非対角成分である d𝑤d𝜌 の項があってわかりにくいので、計量が対角になるようにさらなる座標変換を考える。動径座標はもういじりたくないので、時間座標を座標変換することで対角計量を目指そう。新しい時間座標を 𝑣 として、今のところ未知のその変換と逆変換を
のように書く。すると、
であるから、これらを(107)式に代入すると
となる。ここで d𝑣d𝜌 の係数を0にすればよいのだが、
では困る(まともな座標変換にならない)から、
を満たすような座標変換をすればよい。ここで表記の簡略化のために
と置く。後で使うために 𝐴(𝜌) を 𝜌 で微分すると、
である。このとき(109)式より
と書ける。
𝐵(𝑣) は任意の関数であって具体的な形が未定であるが、それは後で決めることにしてとりあえずこのまま計算を進める。ここからは 𝐴 や 𝐵 の引数を表す (𝜌) や (𝑣) は省略する。(112)式より
である。(115)式の右辺に複号を付けず非負だと決めつけている理由は、もしこれが負だったら(101)式のスケール因子が負になってしまい前提に反するからである。また、(113)式より
である。ただしドット ˙ は座標 𝑣 による微分 を表し、プライム ′ は座標 𝜌 による微分 を表す。(112)・(114)〜(117)式を(108)式に代入して座標変換後の線素の式を計算したいが、(108)式はかなり長くなっているので一気に代入すると大変である。そこで計量の成分ごとに計算しよう。
(108)式の d𝑣² の係数は
である。ここに(110)式を代入すると
となる。
(108)式の d𝑣d𝜌 の係数は、それが0になるように 𝑣 を決めたのだから当然0である。
(108)式の d𝜌² の係数は
である。ここに(110)・(111)式を代入すると
となる。
これら以外の計量の成分は座標変換しても変わらない。以上により線素の式は
となる。あとは 𝐵(𝑣) の形を好きなように決めればよいのだが、ここで仮に 𝑔₀₀ が 𝑣 を含まなければ静的な計量にすることができて良さそうである。そのためには
という微分方程式を解けばよい(右辺は正の定数なら何でもよいが、1にしておくのが楽である)。これは両辺の平方根を 𝑣 で積分するだけで解けるので計算過程を省略していきなり答えを書くと、
である。(119)式を(118)式に代入すれば
となる。 を代入すれば、
となる。これは「宇宙項があったらシュバルツシルト解はどう変わるか」の記事で出てきた反ドジッター解と同じものである。これのことを「反ドジッター時空」(Anti‐de Sitter spacetime)とも呼ぶ。この計量は静的である。曲率が負の空間が減速膨張から加速収縮に転じると思っていた①の解は、反ドジッター時空と同じものだったのだ。
ここでは2段階で座標変換をしたが、最初の座標系と最後の座標系が結局どういう関係になっているのかを求めておこう。(110)・(119)式を(113)・(112)式に代入すると、
であるから、座標変換は
であり、逆変換は
である。式変形が長くなって全体が見づらいので結果だけをもう一度書いておくと、
である。この関係を図示したものが図8である。茶色で描かれた座標系(静的な計量; (120)式)は時空の全体を覆うことができるが、青色で描かれた座標系(𝑘 < 0 のFLRW計量; (102)式)は、
を頂点とする未来光円錐の内部かつ
を頂点とする過去光円錐の内部だけしか言い表せないのである。
はビッグバンとビッグクランチかと思ったらただの座標特異点なのであった。
2.4 すべての解に共通な計量
宇宙定数 𝛬 が正の場合の解であるドジッター時空は(37)式より、負の場合の解である反ドジッター時空は(121)式より、いずれも
という形で表現でき、 𝛬 の符号が異なるだけだった。さらに 𝛬 = 0 の場合の解であるミンコフスキー時空も(129)式に 𝛬 = 0 を代入したものと同じである。結局、フリードマン方程式の真空解は(129)式だけですべてを言い表わせているのだ。
だがよく考えればこれは当たり前の話である。以前に「宇宙項があったらシュバルツシルト解はどう変わるか」の記事で、定常の条件を付けずに球対称で真空の時空の解を求めたら出てきたのが(129)式であった。その「球対称」という条件をさらに厳しくして「一様・等方」にしたものが真空のフリードマン方程式なのだから、解が減ることはあっても増えるはずがないのである。
解は増えなかったが、何も得られなかったわけではない。(129)式は定常であるが一見して一様な空間には見えない座標系であった。それが座標系の張り方をうまく変えるだけで一様・等方な空間が膨張または収縮する時空に見えるようになるし、その際に 𝛬 > 0 ならば空間の曲率 𝑘 の符号も自由に設定できることがわかったのである。