スケール因子 𝑎 が一定でない場合、解くべき方程式は である。フリードマン方程式(10)式とエネルギー保存則の(11)式が成り立てば加速度方程式は自動的に成り立つ。
この章の各節でやる手続きの大まかな流れはだいたい同じである。まず状態方程式(12)式の具体的な形を仮定して、 𝑝 を 𝜀 の関数として表す。それをエネルギー保存則の式に代入して 𝑝 を消去する。そのエネルギー保存則を積分し(このときに積分定数が現れる)、 𝜀 について解いて 𝑎 の関数として表す。それをフリードマン方程式に代入して 𝜀 を消去する。そのフリードマン方程式を積分し(このときに積分定数が現れる)、 𝑎 と時間座標との関係を求めれば完了である。ただし2回目の積分で現れる積分定数は時間座標の原点をずらす効果しかなく時空の実体に影響しないので、面倒だからこの章では一貫して0にすることとする。
この先で方程式の形が複雑になってくると、複素関数が得意な人なら複素関数とみなして積分する方が楽な場合もある。だが複素関数はややこしくて間違えやすいので、この記事では原則として実関数の範囲で積分する。
まず物質が存在せず中身が光子だけ(放射だけ)の宇宙について考えてみよう。先にこれをやる理由は、概念と計算が簡単だからである。静止質量が0の光子ガスの状態方程式(12)式は厳密に である。これをエネルギー保存則の(11)式に代入すると、 となり、放射のエネルギー密度はスケール因子の−4乗に比例する。これをフリードマン方程式(10)式に代入すると、 となる。 𝐾𝑟 は正の定数であり、これが大きいほど宇宙に存在する放射のエネルギーが大きくなる。(13)式を変形すると、 となり、両辺は恒等的に0でないから となる。この先は 𝛬 と 𝑘 の値によって次のように場合分けをして考える。
(15)式は となる。複号が+の解は、時刻 𝑡 = 0 に 𝑎 = 0 から始まって減速膨張し、無限の未来に 𝑎 → ∞ になる宇宙である。複号が−の解はその時間反転である。
(15)式は となるから、時間座標 𝑐𝑡 と曲率半径 の関係をグラフに描けば円(𝑘 > 0)または直角双曲線(𝑘 < 0)になる。 𝑎 について解けば である。
𝑘 が正の場合、 𝑡 = 0 のときに(17)式を使うと(15)式の左辺の被積分関数の分母が0になってしまうが、(14)式までさかのぼってみるとそのときも 0 = 0 となってちゃんと成り立っている。よって 𝑡 = 0 のときも(17)式は解である。これは時刻 に 𝑎 = 0 から始まって減速膨張し、時刻 𝑡 = 0 に最大値 になって加速収縮に転じ、時刻 に 𝑎 = 0 になって終わる宇宙である。
𝑘 が負の場合、(17)式は数学的には1つの関数であるが物理的には2つの解が含まれている。一つは時刻 に 𝑎 = 0 から始まって減速膨張し、無限の未来に等速膨張になり 𝑎 → ∞ になる宇宙である。もう一つはその時間反転である。
(15)式を変形すると となる。ここからさらに場合分けをする。
条件より である。 の左辺の被積分関数の分母の根号の中身は正でなければならないから、 𝑎 は を満たす範囲を動くことができる。そこで新しい変数を 𝑢 として とおく。ただし 𝑢 は 0 < 𝑢 < 𝜋 の範囲から選ぶこととする(したがって sin 𝑢 > 0)。すると であるから、これらを(18)式に代入すると のようになる。(19)式で 𝑢 の符号は正に限られていたので、(22)式の右辺の複号は 𝑡 < 0 のときは−を、 𝑡 > 0 のときは+を採用するべきである。(22)式を(20)式に代入すれば となる。 𝑢 = 0 すなわち 𝑡 = 0 のときに(19)式を使うと(18)式の左辺の被積分関数の分母が0になってしまうので除外して考えてきたが、(14)式までさかのぼってみるとそのときも 0 = 0 となってちゃんと成り立っている。よって 𝑡 = 0 のときも(23)式は解である。これは時刻 に 𝑎 = 0 から始まって減速膨張し、時刻 𝑡 = 0 に最大値 になって加速収縮に転じ、時刻 に 𝑎 = 0 になって終わる宇宙である。
(23)式は 𝑘 の符号に応じて のように書くこともできる。
条件より である。 の左辺の被積分関数の分母の根号の中身は正でなければならないから、 𝑎 は を満たす範囲を動くことができる。そこで新しい変数を 𝑢 として とおく。右辺全体の符号と 𝑢 の符号を同じにしておくということである。すると であるから、これらを(18)式に代入すると のようになる。(27)式の複号は、 𝑡 と 𝑢 は同符号でも異符号でもどちらでもよいということである。(24)式で 𝑢 ≠ 0 に限られていたので、 𝑡 = 0 のときのことは後で考える。(27)式を(25)式に代入すれば となる。1行目の2つの複号は、 𝑡 > 0 のときは複号同順で 𝑡 < 0 のときは複号逆順(そんな言葉はないかもしれないが)である。だが cosh 関数は偶関数であるから引数の複号はあってもなくても同じなので、2個目の複号は不要となり、結局1個目の複号はいつでもどちらでもよいことになって2行目のようになる。ただし 𝑘 が負の場合は、−にすると根号の中身が常に負になってしまうので+の選択肢しかない。(28)式は 𝑘 の符号に応じて のように書くこともできる。
𝑘 が正の場合、 𝑢 = 0 すなわち 𝑡 = 0 のときに(24)式を使うと(18)式の左辺の被積分関数の分母が0になってしまうので除外して考えてきたが、(14)式までさかのぼってみるとそのときも 0 = 0 となってちゃんと成り立っている。よって 𝑡 = 0 のときも(28)・(29)式は解である。複号が+の解は、無限の過去に 𝑎 → ∞ だったものが減速収縮し、時刻 𝑡 = 0 に最小値 になって加速膨張に転じ、無限の未来に 𝑎 → ∞ になる宇宙である。複号が−の解は、時刻 に 𝑎 = 0 から始まって減速膨張し、時刻 𝑡 = 0 に最大値 になって加速収縮に転じ、時刻 に 𝑎 = 0 になって終わる宇宙である。
𝑘 が負の場合、(28)・(30)式は数学的には1つの関数であるが物理的には2つの解が含まれている。一つは時刻 に 𝑎 = 0 から始まって減速膨張し、時刻 に になって加速膨張に転じ、無限の未来に 𝑎 → ∞ になる宇宙である。もう一つはその時間反転である。
条件より となるから、これを(18)式に代入すると のようになる。右辺の全体に複号がついているから左辺の符号がひっくり返っても等式の意味は変わらないので、左辺の被積分関数の分母の絶対値記号はあってもなくても同じだからはずすと、 となる。2個ある複号はそれぞれどちらでもよいのだが、 𝑘 が負の場合は、 exp の前についている1個目の複号については−にすると根号の中身が常に負になってしまうので+の選択肢しかない。(32)式は 𝑘 の符号に応じて 𝑘 を消去して のように書くこともできる。(31)式の条件があるから 𝐾𝑟 と 𝛬 と 𝑘 のうち任意の1個は式から消去できる。
𝑘 が正の場合、複号に応じて4つの解がある。1個目の複号が+で2個目の複号が+の解は、無限の過去に だったものが加速膨張し、無限の未来に 𝑎 → ∞ になる宇宙である。1個目の複号が+で2個目の複号が−の解はその時間反転である。1個目の複号が−で2個目の複号が+の解は、無限の過去に だったものが加速収縮し、時刻 に 𝑎 = 0 になって終わる宇宙である。1個目の複号が−で2個目の複号が−の解はその時間反転である。
𝑘 が負の場合、複号に応じて2つの解がある。複号が+の解は、時刻 に 𝑎 = 0 から始まって減速膨張し、時刻 に になって加速膨張に転じ、無限の未来に 𝑎 → ∞ になる宇宙である。複号が−の解はその時間反転である。
条件より であるから、 の左辺の被積分関数の分母の根号の中身は 𝑎 にかかわらず正である。そこで新しい変数を 𝑢 として とおく。すると であるから、これらを(18)式に代入すると のようになる。(36)式を(34)式に代入すれば となる。複号が+の解は、時刻 に 𝑎 = 0 から始まって減速膨張し、時刻 に になって加速膨張に転じ、無限の未来に 𝑎 → ∞ になる宇宙である。複号が−の解はその時間反転である。
(37)式は 𝑘 の符号に応じて のように書くこともできる。
𝛬 ≠ 0 となるすべての場合についてすでに【3‐1】〜【3‐4】で言い尽くしたわけだが、このうち 0 < 𝛬 となる【3‐2】〜【3‐4】は1つの共通した表式でまとめて解を表すこともできる。そのやり方をやってみよう。
を置換積分するため新しい変数を 𝑣 として と置く。両辺を微分すると である。これらを(18)式に代入すると、左辺の積分の中の分子は(39)式に等しく、左辺の積分の中の分母は となるから、(18)式全体は のようになる。右辺の全体に複号がついているから左辺の符号がひっくり返っても等式の意味は変わらないので、左辺の被積分関数の分母の絶対値記号はあってもなくても同じだからはずすと、 のようになる。また、(38)式を 𝑎 について解けば であるから、(40)式の 𝑣 を(41)式に代入したものが解である。(41)式には 𝑣 が2つあるから本当に代入してしまうと4つ現れる複号の可能な組み合わせを説明するのが面倒だからこのままにしておこう。
今のやり方で出てきた(40)・(41)式は、当然ながら【3‐2】〜【3‐4】で求めた解と基本的には同じであるが、 𝑡 が定数分だけずれている。このやり方があるなら【3‐2】〜【3‐4】は不要と思うかもしれない。だが、共通の式で表されたといっても、解の挙動については の符号に応じて大きく異なるので場合分けをして考えねばならないし、見た目があまりきれいではない。最初から場合分けをした【3‐2】〜【3‐4】とどちらが便利だと思うかは人によるだろう。
この節の結果をまとめると、光(放射)で満たされた宇宙に対するフリードマン方程式 の解は である。項の順番が先ほどと変わっているところがあるが、縦に並べたときに見比べやすくなるようにしただけだ。解は以上だ。
なお蛇足であるが、 𝛬 ≠ 0 の場合は 𝑘 の符号に応じて書き分けると、 𝛬 > 0 ならば のように書くことができ、 𝛬 < 0 ならば のように書くことができる。場合分けが増えてしまうが、関数の挙動を頭で想像するにはこの表式の方が便利かもしれない。